明瞭ではっきりした輪郭線をもち、画面に導入された多くの文字は太いゴシック体。年賀状づくりから始めたという作者らしいと思います。それは、玄人ごのみのプロっぽい画風ではなく、生活に根ざした健康さのある(だからといって、へただとか弱いとかそういうことではもちろんなくて)画面なのだといえるでしょう。
なかでも筆者が、見ているだけでうきうきした気分になったのは、冒頭画像右端の「Apple Wonderland」です。
大小のリンゴがいっぱいの公園で開かれているイベントを、上空からの視点で描いています。
リンゴ型の小屋にはそれぞれ「JUCIE」「CHIPS」などと看板が掲げられ、リンゴ関連の商品を売っています。「JAM」という小屋の前ではサングラスをつけた男が歌っています。井上陽水でしょうか。
小屋が並ぶ手前には、リンゴをかたどった機関車が客車をひっぱっています。行楽地にある小さな汽車のようです。
奥のほうでは、リンゴを半分に切ったかたちをしたテーブルが並び大勢がピクニックを楽しんでいるのをはじめ、うさぎ型に切ったリンゴの乗り物が走ったり、赤い気球で大空散歩を満喫している人がいたり…。
宝賀さんによれば、奥で風船を配っている人は、むかし大通公園で似た情景を見てスケッチしてあったそうです。
これに限らず、いろいろな場面をスケッチしておいて、あとで作品化することが多いとのことです。
食や農をテーマにした作品は、落花生に手足をはやした「ピーナッツ」など、先の「Apple―」のようなファンタジー的なものもありますが、「ヘチマ」「オクラとオオオクラ」「ゴボウ」「キュウリはクール」といったリアルなものも多いです。
また、ストーブをモチーフにした作品もいくつか並んでいます。
宝賀さんの版画を見ていると、「地に足を付けた暮らし」ということに思いが飛びます。
2017年6月24日(土)~7月14日(金)午前10時~午後5時(最終日~午後3時)
ギャラリー山の手(札幌市西区山の手7の6)
■宝賀寿子版画展「版画の国のアリス」 (2009)
■宝賀寿子・木版画「わが街」展 (2007)
■宝賀寿子と松井さんち展 Ⅲ(2003)