(文中敬称略)
開幕まであと4カ月と迫りながら内容があまり明らかになっておらず関係者をやきもきさせていた札幌国際芸術祭(SIAF : Sapporo International Art Festival 2014年7月19日〜9月28日)の概要発表の記者会見が3月13日、東京・六本木ヒルズで行われ、キーファー、畠山直哉、岡部昌生、カールステン・ニコライ、工藤哲巳、中谷芙二子、大竹伸朗、島袋しまぶく道浩…といった出品アーティスト名などが発表された。
この行事を、「主要芸術祭」の一つとして全国の現代美術ファン(と業界)に認知させるためには、最低でも東京での記者発表が欠かせない(あと、可能であれば、札幌国際芸術祭を「BT 美術手帖」の別冊で特集)−と、筆者はかねがね主張していたので、うれしかった。もっとも、当地で見た限りでは、北海道新聞は比較的目立つ扱いだったのをのぞけば、読売は北海道版に掲載。朝日と毎日には全く記載がなく、肩すかしを食った気分だ。
東京で出ている新聞については、週明け以降の文化面になんらかの記事が出ることを期待したいと思う。
翌14日は、札幌市役所で「メディア情報交換会」が開かれた。
坂本龍一ゲストディレクターは出席しなかったが、上田文雄札幌市長があいさつしたほか、実行委の主要メンバーが顔をそろえた。説明の概要については、前日の六本木の記者発表とおおむね同じであったという。
さて、そこで飯田志保子アソシエイト・キュレーターらの概要説明を聞いた限りの全般的な感想を述べると
「お、けっこう、国際芸術祭だ!」
というものだ。失礼な言い方かもしれないが、この顔ぶれは「貧弱」ではない。
「わたしの知ってるアーティストが少ない」
などと言う人がいるかもしれないが、そんな人は相手にしない。だって、モネもピカソもウォーホルもフジタも横山大観も故人だぜ。誰が来れば満足なんだ?
「いま活躍しているアーティスト」が展示の中心であれば、知名度の際だって高い人は少なくなる。
ただ、今回の顔ぶれには、現代美術の世界では相当な人もかなり交じっていることは、ここで強調しておきたい。
もちろん、海外の作家の人数など、規模的な面でいえば、愛知や横浜にはかなわないといえるだろう。
しかし、これは第2回、第3回とつづけるうちに、充実していくものだと思いたい。
もうひとつ、予想される感想は
「地元の作家の出品が少ない」。
これも、逆だと言いたい。
筆者は、こんなに道内の人の名前が挙がってくるとは思わなかった。
岡部昌生さんは別格としても、進藤冬華、露口啓二、伊藤隆介、上遠野敏、武田浩志…と、こんなにいればむしろ「多い」と言いたいくらいだ。
誰かが書いていたが、国際芸術祭とは「ワールドカップ」みたいなものだ。
ワールドカップに「地元チーム枠」は無い。世界の一線級の作品を、世界の観客に鑑賞してもらうのが、国際芸術祭なのである。
ただし、国際芸術祭とワールドカップが異なるのは、後者は試合を勝ち上がってきたナショナルチームや選手たちが登場する実力主義の世界であるのに対し、国際芸術祭はそういう直線的な実力の序列ではなく、それぞれテーマがあって、それに合致した選手ならぬアーティストが招かれる。だから、出品していない、イコール「予選落ち」ということでは、もちろんない。
端聡地域ディレクターによると、「ハコレン/Hacoren 〜札幌ギャラリーネットワーク」というのが期間中展開されるという。それぞれのギャラリーいちおしの作家に登場してもらおうという趣旨のようだ。
国際芸術祭には道外、海外からも多くの人が来る。ここは発想を変えて、「自分の作品を、SIAF来場者にも見てもらおう」と考えた方がいい。もしかしたら、そこで認められて、道外や海外のトリエンナーレでデビューってことにならないとも限らない。
古い話だけど、1855年にパリで開かれた万国博覧会にどんな芸術作品が出品されていたかを覚えている人は少ないが、落選したので会場近くにテントを貼って公開された「オルナンの埋葬」は多くの人にいまも記憶されている絵画になっているのだ。
札幌でこの水準の現代美術がたくさん見られるのは、そうそうあることではないので、単純にありがたい。
ただし、それは岡部昌生も強調していたとおり、突然こうなったのではなく、地元アーティストが手弁当で行ってきた札幌トリエンナーレや FIX MIX MAX! などの積み重ねの結果として、今回の国際芸術祭につながったのだと思う。
そして、ここで最先端の表現に触れた地元作家の作品が変化していけば、こんなにおもしろいことはない。
そういうわけで、筆者はいま、けっこうワクワクしているのだ。
□アートアニュアル・オンラインの記事 http://www.art-annual.jp/news-exhibition/news/33851/
2014年3月14日付北海道新聞の記事は次の通り。
今夏初開催される札幌国際芸術祭の全体概要が13日、東京・六本木ヒルズで発表された。参加作家は48個人・グループで、ドイツを代表する美術家アンゼルム・キーファーさんや美術家の大竹伸朗さんのほか、道内関連では美術家の岡部昌生さん、写真家の露口啓二さん、彫刻家の故砂澤ビッキさんらが加わった。ゲストディレクター(総合芸術監督)の坂本龍一さんもライブを開き、メディアアート作品にも携わる。
(中略)
札幌・道立近代美術館では「都市化・近代化」に着目し、冒頭に岡部さんが夕張炭鉱遺構をフロッタージュ(こすり取り)した作品を展示。キーファーさんのインスタレーション(架設展示)、スボード・グプタさん(インド)や故工藤哲巳さんの彫刻、畠山直哉さんの炭鉱の写真などを通じ、石炭から原子力に至るエネルギー転換とその社会的背景に迫る。故中谷宇吉郎北大教授の雪の結晶写真や、それに感銘を受けたカールステン・ニコライさん(ドイツ)の作品で、雪にちなむアプローチを試みる。
札幌芸術の森美術館では「自然」をテーマに、中谷さんの次女芙二子ふじこさん(札幌出身)の人工霧を使った新作を中庭に置き、ビッキさんの木彫やニコライさんの映像作品などを見せる。
札幌駅前通地下歩行空間では、都市化で失われた「メム(湧水)」に光を当てる露口さんの写真のほか、人気テクノポップユニット「Perfume」の演出を手掛ける真鍋大度だいとさんと坂本さんがメディアアート作品を共同制作する。
札幌市資料館には、根室管内別海町に一時期住んだ大竹さんの作品「時憶/美唄」を展示。道庁赤れんが庁舎では、作曲家・故伊福部昭さんや写真家・故掛川源一郎さんの作品を通し、核問題やアイヌ文化を浮かび上がらせる。計9会場でパフォーマンスやライブを含めて実施し、能楽師・野村萬斎さんとアイヌ民族による神事も計画。坂本さんは「3・11」を経験し、いかに自然と共存して新しい文明を築くか考える時。市民が主役になる芸術祭の種をまきたい」と語った。
同日の讀賣新聞北海道版の記事は次の通り。
札幌市が今夏に開く「札幌国際芸術祭」で、芸術監督(ゲストディレクター)を務める音楽家の坂本龍一さんが13日、東京都内で記者会見し、「札幌でアートに携わる人材を育て、世界に作品を発信する拠点としたい」と語り、芸術祭の実施計画を発表した。
芸術祭のテーマは「都市と自然」。7月19日〜9月28日、道立近代美術館やモエレ沼公園など9施設を会場とし、音楽、映像、絵画、写真など各分野で活躍する国内外の51組が参加する。
近代美術館では、アーティスト10人が炭鉱の興廃や原子力発電への転換などをテーマにした写真や彫刻作品を出展、道内の近代化の歩みを振り返る。モエレ沼公園では、坂本さんが編集した音響を楽しめる空間「フォレスト・シンフォニー」を設ける。赤れんが庁舎では、いずれも道内出身の写真家掛川源一郎さん(1913〜2007年)、作曲家伊福部昭さん(1914〜2006年)をしのぶ特別展が開かれる。
開幕まであと4カ月と迫りながら内容があまり明らかになっておらず関係者をやきもきさせていた札幌国際芸術祭(SIAF : Sapporo International Art Festival 2014年7月19日〜9月28日)の概要発表の記者会見が3月13日、東京・六本木ヒルズで行われ、キーファー、畠山直哉、岡部昌生、カールステン・ニコライ、工藤哲巳、中谷芙二子、大竹伸朗、島袋しまぶく道浩…といった出品アーティスト名などが発表された。
この行事を、「主要芸術祭」の一つとして全国の現代美術ファン(と業界)に認知させるためには、最低でも東京での記者発表が欠かせない(あと、可能であれば、札幌国際芸術祭を「BT 美術手帖」の別冊で特集)−と、筆者はかねがね主張していたので、うれしかった。もっとも、当地で見た限りでは、北海道新聞は比較的目立つ扱いだったのをのぞけば、読売は北海道版に掲載。朝日と毎日には全く記載がなく、肩すかしを食った気分だ。
東京で出ている新聞については、週明け以降の文化面になんらかの記事が出ることを期待したいと思う。
翌14日は、札幌市役所で「メディア情報交換会」が開かれた。
坂本龍一ゲストディレクターは出席しなかったが、上田文雄札幌市長があいさつしたほか、実行委の主要メンバーが顔をそろえた。説明の概要については、前日の六本木の記者発表とおおむね同じであったという。
さて、そこで飯田志保子アソシエイト・キュレーターらの概要説明を聞いた限りの全般的な感想を述べると
「お、けっこう、国際芸術祭だ!」
というものだ。失礼な言い方かもしれないが、この顔ぶれは「貧弱」ではない。
「わたしの知ってるアーティストが少ない」
などと言う人がいるかもしれないが、そんな人は相手にしない。だって、モネもピカソもウォーホルもフジタも横山大観も故人だぜ。誰が来れば満足なんだ?
「いま活躍しているアーティスト」が展示の中心であれば、知名度の際だって高い人は少なくなる。
ただ、今回の顔ぶれには、現代美術の世界では相当な人もかなり交じっていることは、ここで強調しておきたい。
もちろん、海外の作家の人数など、規模的な面でいえば、愛知や横浜にはかなわないといえるだろう。
しかし、これは第2回、第3回とつづけるうちに、充実していくものだと思いたい。
もうひとつ、予想される感想は
「地元の作家の出品が少ない」。
これも、逆だと言いたい。
筆者は、こんなに道内の人の名前が挙がってくるとは思わなかった。
岡部昌生さんは別格としても、進藤冬華、露口啓二、伊藤隆介、上遠野敏、武田浩志…と、こんなにいればむしろ「多い」と言いたいくらいだ。
誰かが書いていたが、国際芸術祭とは「ワールドカップ」みたいなものだ。
ワールドカップに「地元チーム枠」は無い。世界の一線級の作品を、世界の観客に鑑賞してもらうのが、国際芸術祭なのである。
ただし、国際芸術祭とワールドカップが異なるのは、後者は試合を勝ち上がってきたナショナルチームや選手たちが登場する実力主義の世界であるのに対し、国際芸術祭はそういう直線的な実力の序列ではなく、それぞれテーマがあって、それに合致した選手ならぬアーティストが招かれる。だから、出品していない、イコール「予選落ち」ということでは、もちろんない。
端聡地域ディレクターによると、「ハコレン/Hacoren 〜札幌ギャラリーネットワーク」というのが期間中展開されるという。それぞれのギャラリーいちおしの作家に登場してもらおうという趣旨のようだ。
国際芸術祭には道外、海外からも多くの人が来る。ここは発想を変えて、「自分の作品を、SIAF来場者にも見てもらおう」と考えた方がいい。もしかしたら、そこで認められて、道外や海外のトリエンナーレでデビューってことにならないとも限らない。
古い話だけど、1855年にパリで開かれた万国博覧会にどんな芸術作品が出品されていたかを覚えている人は少ないが、落選したので会場近くにテントを貼って公開された「オルナンの埋葬」は多くの人にいまも記憶されている絵画になっているのだ。
札幌でこの水準の現代美術がたくさん見られるのは、そうそうあることではないので、単純にありがたい。
ただし、それは岡部昌生も強調していたとおり、突然こうなったのではなく、地元アーティストが手弁当で行ってきた札幌トリエンナーレや FIX MIX MAX! などの積み重ねの結果として、今回の国際芸術祭につながったのだと思う。
そして、ここで最先端の表現に触れた地元作家の作品が変化していけば、こんなにおもしろいことはない。
そういうわけで、筆者はいま、けっこうワクワクしているのだ。
□アートアニュアル・オンラインの記事 http://www.art-annual.jp/news-exhibition/news/33851/
2014年3月14日付北海道新聞の記事は次の通り。
今夏初開催される札幌国際芸術祭の全体概要が13日、東京・六本木ヒルズで発表された。参加作家は48個人・グループで、ドイツを代表する美術家アンゼルム・キーファーさんや美術家の大竹伸朗さんのほか、道内関連では美術家の岡部昌生さん、写真家の露口啓二さん、彫刻家の故砂澤ビッキさんらが加わった。ゲストディレクター(総合芸術監督)の坂本龍一さんもライブを開き、メディアアート作品にも携わる。
(中略)
札幌・道立近代美術館では「都市化・近代化」に着目し、冒頭に岡部さんが夕張炭鉱遺構をフロッタージュ(こすり取り)した作品を展示。キーファーさんのインスタレーション(架設展示)、スボード・グプタさん(インド)や故工藤哲巳さんの彫刻、畠山直哉さんの炭鉱の写真などを通じ、石炭から原子力に至るエネルギー転換とその社会的背景に迫る。故中谷宇吉郎北大教授の雪の結晶写真や、それに感銘を受けたカールステン・ニコライさん(ドイツ)の作品で、雪にちなむアプローチを試みる。
札幌芸術の森美術館では「自然」をテーマに、中谷さんの次女芙二子ふじこさん(札幌出身)の人工霧を使った新作を中庭に置き、ビッキさんの木彫やニコライさんの映像作品などを見せる。
札幌駅前通地下歩行空間では、都市化で失われた「メム(湧水)」に光を当てる露口さんの写真のほか、人気テクノポップユニット「Perfume」の演出を手掛ける真鍋大度だいとさんと坂本さんがメディアアート作品を共同制作する。
札幌市資料館には、根室管内別海町に一時期住んだ大竹さんの作品「時憶/美唄」を展示。道庁赤れんが庁舎では、作曲家・故伊福部昭さんや写真家・故掛川源一郎さんの作品を通し、核問題やアイヌ文化を浮かび上がらせる。計9会場でパフォーマンスやライブを含めて実施し、能楽師・野村萬斎さんとアイヌ民族による神事も計画。坂本さんは「3・11」を経験し、いかに自然と共存して新しい文明を築くか考える時。市民が主役になる芸術祭の種をまきたい」と語った。
同日の讀賣新聞北海道版の記事は次の通り。
札幌市が今夏に開く「札幌国際芸術祭」で、芸術監督(ゲストディレクター)を務める音楽家の坂本龍一さんが13日、東京都内で記者会見し、「札幌でアートに携わる人材を育て、世界に作品を発信する拠点としたい」と語り、芸術祭の実施計画を発表した。
芸術祭のテーマは「都市と自然」。7月19日〜9月28日、道立近代美術館やモエレ沼公園など9施設を会場とし、音楽、映像、絵画、写真など各分野で活躍する国内外の51組が参加する。
近代美術館では、アーティスト10人が炭鉱の興廃や原子力発電への転換などをテーマにした写真や彫刻作品を出展、道内の近代化の歩みを振り返る。モエレ沼公園では、坂本さんが編集した音響を楽しめる空間「フォレスト・シンフォニー」を設ける。赤れんが庁舎では、いずれも道内出身の写真家掛川源一郎さん(1913〜2007年)、作曲家伊福部昭さん(1914〜2006年)をしのぶ特別展が開かれる。