古い写真アルバムを思いがけず目にすると私たちの心は乱れ、さざ波だつ。
はるかかなたに薄れていった記憶が、不意打ちのように、鮮明に、目の前に出現するからだ。
しかし、そもそも人の記憶というのは、輪郭のはっきりしない不鮮明なイメージなのではないか。
膨大なイメージが印刷物や映像やインターネットにあふれる時代になり、つい人は誤解してしまっているのではないか。本来、記憶の中のものごとは、そのような鮮明な映像で再現されるほうが、むしろ不自然なのではないだろうか。
そう考えてくると、風間雄飛さんの作品は、私たちの記憶の、本来のありように、とても即したかたちで存在しているといえよう。
霧の向こうの人影のように、ぼんやりとして、とらえどころのない世界。でも、よく見ると、淡い色彩と、不分明な形態のなかに、たしかに存在しているもの。
何もかもがはっきりと見える状態の方が、ほんとうは嘘くさいのだと、筆者は思う。
もうひとつ。
風間さんの作品は、写真に撮りづらいのが特徴だ。
ここに掲出した画像は、ちょっと色が強調されていて、実物とは異なる印象を受ける。
だから、実物を見てほしいと思うのだ。
さて、風間さんは昨年、3カ月間ほど、東京・あきる野市の版画工房に滞在して制作した。
今回の個展は、そのときの制作物を中心にしたものだ。
また昨年は、トウキョウワンダーウォールにも、笠見康大さんとともに選ばれて展示しており、その際の出品作も…あったはず…。
これまでは主に油彩インクを使ってきたが、あきる野市では、環境への影響を顧慮して水彩インクを使っていたとのこと。
風間さんは、茫漠とした雰囲気を出すため、表と裏からインクを滲透させる手法を用いてきた。
「水彩インクで裏から色を出すのは大変でした。でも、これからは、水彩にシフトしていくと思います」
冒頭画像の大作は「どんたく」。
自ら楮こうぞを漉いて作った紙に刷っている。
2枚目の右は「らじお」。古い感じが出ている。
左は「ろてん」。
湯気がもうもうとたつ露天風呂というのは、たしかにこんな感じだ。
ほかの出品作は次の通り。
うもう
みちくさ
とったり
ごっちん
すたこら
おむかえ
はしふり
はいはいはいはい
はいはい
スイミー
でいむん
「はいはいはいはい」は、同じ型で、障子型の支持体に繰り返し(32枚)刷ったユニークな作品。
2014年4月16日(水)〜28日(月)午後1〜10時、火曜休み
ギャラリー犬養(豊平区豊平3の1)
□ツイッター https://twitter.com/yuhi_kazama
■風間雄飛個展(2009)
・地下鉄東西線「菊水」から約600メートル、徒歩9分
・中央バス「豊平橋」から約140メートル、徒歩2分(ただし、途中に低い柵あり。いったん豊平2条通まで遠回りしたほうがいいかも)
・地下鉄東豊線「学園前」1番出口から約1キロ、徒歩13分