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■篠山紀信 写真力 (2014年4月26日〜6月15日、札幌)

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 日本を代表する写真家のひとりといって差し支えないであろう篠山紀信の、美術館では初となる本格的な個展が、熊本県現代美術館を皮切りに全国を巡回している。札幌は10会場目。
 オープニングの際、作家があいさつしていた内容が、この写真展のスタンスをかなりの程度物語っていると思うので、筆者なりに要約して紹介してみたい。

 美術館で写真展というのがあまり好きではなくて…。額の中に写真をおさめて、芸術だからありがたく鑑賞しなさいっていうのがね、自分としてはちょっと違う。
 作品の死体置き場だなんて、うそぶいていました。
 そしたら、全然「個展やりませんか」って、話が来なくなるんですね(笑)。
 美術館で個展をやると「一丁上がり」的に見られるのもイヤでね(笑)。現役の作家ですからね。
 (今回の写真展は)スタティックに見るんじゃなくて、美術館という異空間に写真の力がみなぎったものを、どーんと展示したかった。写真の力と空間の力のバトルというか、せめぎ合いをしたらどうなるか、というのがはじめにあったんです。
 横9メートルなんて、僕も見たことがなかった大きさなんですよ。あらためて、この写真にこんな力があったのかと思いました。自分が吸い込まれていくような新鮮な感覚でした。
 「写真展」というよりも、新しい体験をする感じで見てほしい。テレビや図録ではわからない、この場所に来て、写真と対峙しながら見てほしいです。
 ここの会場はうまくできています。季節もいいですしね。この前の前の会場は新潟だったんですが、毎日雨か雪で、東京にいても新潟の天気ばかりが気になっていました。それでも大勢の方が見に来てくれた。ですから、みなさんおうちに帰ったらぜひ「いい展覧会だよ」と宣伝してください(笑)。

 むろん、一字一句そのままではないが、「功成り名を遂げる」、芸術院会員的なあり方を拒否し、いくつになっても好奇心いっぱいにシャッターを押し続けていたい篠山氏の気持ちが表れているのではないだろうか。

 つづいて会場で開かれたトークイベントは、立ち見のほうが多いほどの人気。ここでも氏は、持ち味の話術の巧みさを存分に発揮し、会場を笑いのうずに巻き込んでいた。

 トークのおもな内容をここに記しておこう。

・歌舞伎の写真は、すべて本番中に撮った。稽古は3日ぐらいしかやらないし、稽古をとられたくない人もいる。本番でなくちゃこういう表情にはなりません。一番後ろから1200ミリの望遠レンズで撮りました。撮っていると、役者をやっているような気分になる。乗り移るんだね。これがほんとの「紀信伝信」(笑)。

・有名人は時代を喚起させる力がある。とくに(山口)百恵は、80年に引退しちゃったから、彼女の写真を見ると自分は70年代に何をしていたのか、自分史を思い起こさせる。今回の写真は、「GORO」のグラビアで、(富士山麓の)山中湖で撮りました。当時彼女は売れっ子で非常に忙しく、1誌の撮影だけで、そんなに遠くまで連れ出すことができない。当時ぼくは「少年マガジン」と「明星」のグラビアもやってたんで、3誌ぶんの仕事をいっぺんにやると言ったら、事務所もOKしてくれました。この写真は夕方で、よく「どうやったら百恵ちゃんをこんなに色っぽく撮れるんですか」と聞かれましたが、色っぽいんじゃなくて疲れてたんじゃないかな、彼女。

・ゴクミは4人うつってます。これは1台のカメラをふって、あとでつなげました。当時はやっていたパノラマ写真と篠山をあわせて「シノラマ」という語をつくりました。目で見るのと、遠近感が違うんです。はやりの言葉で言うと「ねつ造」ですね(笑)。どんどん変わってゆく東京の「変さ(変な感じ)」を撮ろうとしたのがきっかけ。やはり、時代が生んだ手法だと思います。製本などにお金がかかるし、今の雑誌はやらないでしょう。写真は時代の映し鏡なんだとつくづく感じます。

・(あらかじめ持っている)イメージの通りに撮るなんて、現実をひん曲げること。ぼくはロケハンもしない。天気待ちなんて、天に失礼じゃないですか。雨なら雨で撮ります。現場の空気感、体調も含め、写真って、一期一会なんですよ。

・(東日本大震災の写真について)時代を撮っている俺が、これを撮らなくていいのか。知らなかったことにしようというわけにはいかない。でも(被災地に)行く気にはなれない。怖いんだよね。報道写真家でもない俺が行って、何ができると思った。ずるずると、行かなかった。行ったのは60日後なんです。ある雑誌の人が「考えないでいきましょう」と言ってくれた。「篠山さんが見て、撮ったものでいいですよ」と。
 被災者は意外としゃべりたいんです。自分だけの体験だから。でも、いざ写真を撮らせてくれってことになると難しい。
 写真は8×10(エイト・バイ・テン)で撮りました。60日は複雑な時間。海のなかにアニキがまだいるんだよね、とか、ある一瞬から理不尽な境遇に陥ったわけだから、みなさん、なんともいえない表情をしているんですよ。「笑ってください」なんて、いえないじゃないですか。心のうちがうつっている。僕が撮ったというよりも、カメラが撮った写真です。

(続きは別項) 


2014年4月26日(土)〜6月15日(日)午前9時45分〜午後5時(6月は〜午後5時30分、入館は閉館の30分前まで)、会期中無休
札幌芸術の森美術館(南区芸術の森2)

一般・大学1100円(900円)、高校生・中学生・65歳以上(年齢が分かるものを持参のこと)900円(700円)、小学生600円(400円)、小学生未満無料
かっこ内は20人以上の団体料金


・地下鉄南北線「真駒内」駅ターミナルの2番乗り場(下の地図)から、中央バスに乗り継ぎ(どの路線でも可)、「芸術の森入口」降車。
※「芸術の森センター」まで行くと遠いので注意。



※ストリートビューへのリンク
https://www.google.com/maps/@42.990116,141.358003,3a,75y,116.87h,76.73t/data=!3m4!1e1!3m2!1s98JVhy-fc779KT5G_WUshw!2e0

□公式サイト http://www.stv.ne.jp/event/kishin/index.html

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