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■谷口明志 インスタレーション 線の虚構 (2015年1月10日~3月15日、小樽)

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 小樽ゆかりで現在は札幌在住の谷口明志さんの個展。

 1961年生まれ。この世代の企画展が道内の美術館で開催されるのは、初めてのことと思われる。



 「現代美術は難しい」
というのはもはやクリシェになっているが、ふだん親しみのない人が言うならともかく、美術界に身を置く人がわざわざ口にしてみても、ほとんど無意味だろう。
 まして、今回のような、非常にわかりやすい展覧会の場合は。

 谷口さんの作品は、難解なところは何もない。

 日曜画家がキャンバスを買ってきてその上にコンテや絵筆で線をひくことや、子どもがたわむれに指を空中に走らせることと、異なるところは全くないのだ。

 谷口さんのかく線は、キャンバスや紙、屏風といった支持体の上に限らず、壁や天井を走る。
 時には、床の下にもぐり、再び視界に現れることもある。

 2番目の画像のように、支持体それ自体が、線のように細長い形で、展示空間を縦横かつ自在に走っていることもある。

 また、一番下の画像のように、白い線が支持体から浮き上がって、空中を横切っていることさえある。


 というわけで、難解ではないとしかいいようがないが、注意深さはあった方がいいかもしれない。

 というのは、「影」を画材のかわりに用いていることがあるからだ。
 漫然と見ていると、黒い線が、マーカーや絵の具で描かれたものなのか、それとも、針金にスポットライトが当たって生じた影が、壁や段ボールの上であたかも描かれた線のように見えているのか、区別がつきづらいのだ。

 左上の作品は、一見すべて描かれた線のように見えるが、次の画像を見てほしい。

 空中に浮いた針金のうち、影と、描かれた線の両方があるのだ。




 展示室奥の、いちばん広いスペースは、もっぱら影をつなげて1本の長い長い線を現出させた作品。

 壁や床から突き出した長短の細い針金だけを見ていると、ぜんぜん意味がわからないだろうが、スポットライトがあたってできた影が1本の線につながっていることに気づくと、思わず声を上げたくなるだろう。



 ところが、何百本も立っている針金の影がつくる線の中で、1カ所だけ、線を引いたところがあるというのだ。
 作者の遊び心に舌を巻いてしまう。



 このあたりは、実際に会場に足を運んで、じっくり探すとともに、作者の自由な心に同化して、自分も空中に、目や指でドローイングしたみたいものだ。




 さて、筆者は冒頭で、谷口明志さんのインスタレーションは、全く難解ではないと述べた。
 確かにそうなのだが、実は谷口さんは、一足飛びに、初期の具象画から、このような作品に到達したのではない。

 20世紀絵画は、それまでの透視図法的な描き方を捨てて、新しい奥行き感の模索を続けてきた。
 ピカソのキュビスムも、マティスのフォービスムも、その試み(奥行きの問題だけでは、もちろんないけれど)を続けてきたのだ。
 原理的には、平らな面で、立体の世界を表すことには、どこかでムリが生じる。
 それでは、絵画はどうしたらいいのか。谷口明志さんのインスタレーションは、その解答の一つなのだと思う。



 最後に、余談ですが、2月11日のアーティストトークの際、サッカーの中田英寿氏が会場にこっそり姿を見せていたそうです。


2015年1月10日(土)~3月15日(日)午前9時30分~午後5時(入館は4時30分まで)
市立小樽美術館(色内1)
一般400円など。文学館との共通券あり



・JR小樽駅から約700メートル、徒歩9分
・中央バス・ジェイアール北海道バスの「高速おたる号」で「市役所通」降車、約690メートル、徒歩9分



【告知】谷口明志インスタレーション 線の虚構

川上りえ 札幌文化奨励賞受賞記念 Plus1 Group Exhibition (2013年)

JRタワー・アートプラネッツ2012 楽しい現代美術入門 アルタイルの庭 (2012年)
谷口明志・川上りえ Space Abstraction II (2012年)

谷口明志「Drawing」 ハルカヤマ藝術要塞
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