2015~16年のフェルメール、翌16~17年の北斎と、年末年始は「リ・クリエイト」と銘打った複製画展が開かれてきた、札幌駅前のプラニスホール。
この年末年始は、再びフェルメール全点と、同時代に生きたオランダの巨匠レンブラントの代表作を、会期を前期と後期に分けての展覧会です。今回も、美術の専門家ではなく、生物学の福岡伸一さんが監修しています。
筆者は前期を見逃してしまいました。
フェルメール展の際にも書きましたが、この種の展覧会の、通常の画集にはない利点として
「大きさの感覚がつかみやすい」
ということが挙げられるでしょう。
会場をざっと見渡してみても、前半のレンブラントは比較的大きく、フェルメールは小品が多いことが、たちどころにわかります。
冒頭画像は「夜警」の題で親しまれてきたレンブラントの代表作。
プラニスホールの天井高いっぱいという巨大さです。
天井附近のスポットライトが手前にあり、全体を正面から撮影することはできません。
この絵は、アムステルダムのマスケット銃組合が市民防衛隊宿舎のホールを飾るために発注した集団肖像画で、「夜警」とは、表面がニスで黒ずんできたため後年誤って呼ばれてきたのだそうです。
作品は第2次世界大戦中に疎開して、キャンバスが巻かれた状態で保管されており、戦後調査のため表面のニスを落とした際、昼間の場面であることが判明しました。
さらに、この絵が描かれたのは1642年ですが、1716年にアムステルダム市庁舎会議室に移された際、壁の大きさに合わせるために左側と天井側の一部を切り落とした疑いが強いとみられています。
完成直後に描かれた模写は、アムステルダム国立美術館が所蔵している現在の作品よりも幅が64センチ、高さ22センチほど大きいのです。
今回の「リ・クリエイト」では、その切断されたとおぼしき部分も復元しています。
左側の2人は、どうやら銃組合のメンバーではなくパレードの見物人らしいという事情もあり、現在の絵には見られません。
こういう復元も、実物の作品ではちょっとできない、複製ならではの面白い試みだといえるでしょう。
この作品については、従来の集団肖像画がメンバーを平等に描いていた慣例を打ち破って、劇的な舞台効果のなかに群像を描いたことで高く評価されたなど、語りだせばきりがありません。
このタイミングでひとつ注意を促しておくとすれば、今年はカラヴァッジョ展が札幌の道立近代美術館で開催されますが、明と暗をダイナミックに強調した彼の画風は確実にレンブラントにも影響していたことが、この代表作からも見て取れる―ということでしょう。
余談ですが「夜警」は、英語では Night Watch です。
昨年暮れに札幌でもライブコンサートを行った、古参ロックバンドの King Crimson(キング・クリムゾン)にも「The Night Watch」という曲がありますね。この絵と関係あるのでしょうか。
1973年に発表されたアルバム「Starless and Bible Black」に収録されています。
末尾にYou tube のリンクを貼り付けておきました。
97年には『ザ・ナイトウォッチ -夜を支配した人々-』というライブアルバムも出していますが、これは1973年にアムステルダム・コンセルトヘボウ公演の収録です。
コンセルトヘボウのホールとレンブラントの生家(現存している)はけっこう近かった記憶があります。
話を戻します。
今回見た印象ですが、レンブラントの複製は、リアルさにおいて、フェルメールよりも明らかに質が落ちます。
これは「ガリラヤの海の嵐」の一部分です。
写真で見てわかるかどうか、なんともいえませんが、細部の描写がつぶれていて甘いです。
今回も展示されているフェルメールは、とりわけ小品は、かなり目を凝らさないと「リ・クリエイト」であることがわかりません。
しかし、レンブラントは、もし実物と「リ・クリエイト」を並べて架けていたら、ただちにわかるレベルだと思います。
左は「フローラ」。
これも、花の描写がピンの甘い写真を連想させます。
「ダヴィデ王の手紙を持つバテシバ」
どうしてフェルメールに比べてレンブラントの複製が物足りなく感じられるのか。
元になる画像撮影の精度の甘さ・粗さもありますが、黒のインクの乗りが弱いのではないでしょうか。
ぼんやりした記憶が頼りで、申し訳ないのですが、たとえば川村記念美術館にすぐれたレンブラントの自画像があるのですが、黒がもっと引き締まっていたような気がするのです。
こちらの黒は、じゅうぶんな暗さに欠け、つやっぽさや生気に乏しいような感じを受けるのは、筆者だけでしょうか。
レンブラントの代名詞ともいえる自画像。
後期だけで5点が展示されています。
この画像は1632年作。26歳ぐらいです。
次は1669年。60代を迎えています。
青年から、得意絶頂だったころ、さらに貧しさに落ち込んでいった晩年まで、画家の精神がつたわってきます。
19世紀以後の画家は自らの精神を画面に反映させることがふつうになりましたが(代表例はゴッホ)、レンブラントの時代は基本、職人という位置づけも強く、画面から心のありようがつたわってくる作品を作っていた画家は珍しいと思います。
前期(~12月22日)に展示されたのは次の通り。
「失神した人(嗅覚)」
「眼鏡売り(視覚)」
「手術(触覚)」
「二人の歌い手(聴覚)」
「聖ステファヌスの石刑」
「歴史画(主題不明)」
「音楽の寓意」
「トビトとハンナ」
「銀貨30枚を返すユダ」
「自画像」(1630年)
「笑う兵士」
「悲嘆にくれる預言者エレミア」
「喉当てを付けた老人の肖像」
後期(12月23日~)の展示は次の通り。
「東洋風の衣装の男」
「自画像」
「赤い帽子をかぶったサスキア」
「ガリラヤの海の嵐」
「フローラ」
「34歳の自画像」
「額縁の中の少女」
「自画像」(1642年)
「窓辺の少女」(1645年)
「聖家族」
「ダヴィデ王の手紙を持つバリシバ」
「ユダヤの花嫁」
「自画像」(1665年)
「自画像」(1669年)
「夜警」のみ、前後期通し。
フェルメールについては前回書いたので、下のリンク先から入って見てください。
手前にガラスが入っていないし、撮影自由だし、それほど混雑していないし、東京まで見に行ってくたびれるよりは、よほどあずましく見られるかもしれないと思います。
「地理学者」と「天文学者」
「絵画芸術」
「少女」
2018年12月8日(土)~19年1月6日(日)午前10時~午後5時(入場~午後4時半)
プラニスホール(札幌市中央区北5西2 エスタ11階)=ビックカメラのいちばん上
一般800円、中高大生500円、小学生以下無料
※道新ぶんぶんクラブ会員は700円
関連記事へのリンク
■フェルメール 光の王国展 in SAPPORO (2015~16) ■続き
プラニスホール(札幌エスタ11階)に行く、たったひとつのさえたやり方
King Crimson - The Night Watch (OFFICIAL)
この年末年始は、再びフェルメール全点と、同時代に生きたオランダの巨匠レンブラントの代表作を、会期を前期と後期に分けての展覧会です。今回も、美術の専門家ではなく、生物学の福岡伸一さんが監修しています。
筆者は前期を見逃してしまいました。
フェルメール展の際にも書きましたが、この種の展覧会の、通常の画集にはない利点として
「大きさの感覚がつかみやすい」
ということが挙げられるでしょう。
会場をざっと見渡してみても、前半のレンブラントは比較的大きく、フェルメールは小品が多いことが、たちどころにわかります。
冒頭画像は「夜警」の題で親しまれてきたレンブラントの代表作。
プラニスホールの天井高いっぱいという巨大さです。
天井附近のスポットライトが手前にあり、全体を正面から撮影することはできません。
この絵は、アムステルダムのマスケット銃組合が市民防衛隊宿舎のホールを飾るために発注した集団肖像画で、「夜警」とは、表面がニスで黒ずんできたため後年誤って呼ばれてきたのだそうです。
作品は第2次世界大戦中に疎開して、キャンバスが巻かれた状態で保管されており、戦後調査のため表面のニスを落とした際、昼間の場面であることが判明しました。
さらに、この絵が描かれたのは1642年ですが、1716年にアムステルダム市庁舎会議室に移された際、壁の大きさに合わせるために左側と天井側の一部を切り落とした疑いが強いとみられています。
完成直後に描かれた模写は、アムステルダム国立美術館が所蔵している現在の作品よりも幅が64センチ、高さ22センチほど大きいのです。
今回の「リ・クリエイト」では、その切断されたとおぼしき部分も復元しています。
左側の2人は、どうやら銃組合のメンバーではなくパレードの見物人らしいという事情もあり、現在の絵には見られません。
こういう復元も、実物の作品ではちょっとできない、複製ならではの面白い試みだといえるでしょう。
この作品については、従来の集団肖像画がメンバーを平等に描いていた慣例を打ち破って、劇的な舞台効果のなかに群像を描いたことで高く評価されたなど、語りだせばきりがありません。
このタイミングでひとつ注意を促しておくとすれば、今年はカラヴァッジョ展が札幌の道立近代美術館で開催されますが、明と暗をダイナミックに強調した彼の画風は確実にレンブラントにも影響していたことが、この代表作からも見て取れる―ということでしょう。
余談ですが「夜警」は、英語では Night Watch です。
昨年暮れに札幌でもライブコンサートを行った、古参ロックバンドの King Crimson(キング・クリムゾン)にも「The Night Watch」という曲がありますね。この絵と関係あるのでしょうか。
1973年に発表されたアルバム「Starless and Bible Black」に収録されています。
末尾にYou tube のリンクを貼り付けておきました。
97年には『ザ・ナイトウォッチ -夜を支配した人々-』というライブアルバムも出していますが、これは1973年にアムステルダム・コンセルトヘボウ公演の収録です。
コンセルトヘボウのホールとレンブラントの生家(現存している)はけっこう近かった記憶があります。
話を戻します。
今回見た印象ですが、レンブラントの複製は、リアルさにおいて、フェルメールよりも明らかに質が落ちます。
これは「ガリラヤの海の嵐」の一部分です。
写真で見てわかるかどうか、なんともいえませんが、細部の描写がつぶれていて甘いです。
今回も展示されているフェルメールは、とりわけ小品は、かなり目を凝らさないと「リ・クリエイト」であることがわかりません。
しかし、レンブラントは、もし実物と「リ・クリエイト」を並べて架けていたら、ただちにわかるレベルだと思います。
左は「フローラ」。
これも、花の描写がピンの甘い写真を連想させます。
「ダヴィデ王の手紙を持つバテシバ」
どうしてフェルメールに比べてレンブラントの複製が物足りなく感じられるのか。
元になる画像撮影の精度の甘さ・粗さもありますが、黒のインクの乗りが弱いのではないでしょうか。
ぼんやりした記憶が頼りで、申し訳ないのですが、たとえば川村記念美術館にすぐれたレンブラントの自画像があるのですが、黒がもっと引き締まっていたような気がするのです。
こちらの黒は、じゅうぶんな暗さに欠け、つやっぽさや生気に乏しいような感じを受けるのは、筆者だけでしょうか。
レンブラントの代名詞ともいえる自画像。
後期だけで5点が展示されています。
この画像は1632年作。26歳ぐらいです。
次は1669年。60代を迎えています。
青年から、得意絶頂だったころ、さらに貧しさに落ち込んでいった晩年まで、画家の精神がつたわってきます。
19世紀以後の画家は自らの精神を画面に反映させることがふつうになりましたが(代表例はゴッホ)、レンブラントの時代は基本、職人という位置づけも強く、画面から心のありようがつたわってくる作品を作っていた画家は珍しいと思います。
前期(~12月22日)に展示されたのは次の通り。
「失神した人(嗅覚)」
「眼鏡売り(視覚)」
「手術(触覚)」
「二人の歌い手(聴覚)」
「聖ステファヌスの石刑」
「歴史画(主題不明)」
「音楽の寓意」
「トビトとハンナ」
「銀貨30枚を返すユダ」
「自画像」(1630年)
「笑う兵士」
「悲嘆にくれる預言者エレミア」
「喉当てを付けた老人の肖像」
後期(12月23日~)の展示は次の通り。
「東洋風の衣装の男」
「自画像」
「赤い帽子をかぶったサスキア」
「ガリラヤの海の嵐」
「フローラ」
「34歳の自画像」
「額縁の中の少女」
「自画像」(1642年)
「窓辺の少女」(1645年)
「聖家族」
「ダヴィデ王の手紙を持つバリシバ」
「ユダヤの花嫁」
「自画像」(1665年)
「自画像」(1669年)
「夜警」のみ、前後期通し。
フェルメールについては前回書いたので、下のリンク先から入って見てください。
手前にガラスが入っていないし、撮影自由だし、それほど混雑していないし、東京まで見に行ってくたびれるよりは、よほどあずましく見られるかもしれないと思います。
「地理学者」と「天文学者」
「絵画芸術」
「少女」
2018年12月8日(土)~19年1月6日(日)午前10時~午後5時(入場~午後4時半)
プラニスホール(札幌市中央区北5西2 エスタ11階)=ビックカメラのいちばん上
一般800円、中高大生500円、小学生以下無料
※道新ぶんぶんクラブ会員は700円
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King Crimson - The Night Watch (OFFICIAL)