福井優子さんのキャンドル個展に、最終日にうかがった。
筆者も変人なので最初に目を向ける方向が普通ではないと思うのだが、会場入り口の机の上に置いてあった英ロックバンド「YES(イエス)」のCD「RELAYER」がキャンドル作品よりも先に視野に入って、おや? と思った。「リレイヤー」は1974年に発売され、イエスのキャリアではちょっと異色のアルバムとされている。
イエスのアルバムといえばやっぱり「CLOSE TO THE EDGE(邦題『危機』)」がいいなあ。でも、ラストの流れが好きなんです。
…などと会話をしたところで(じつは、机上にはドリームシアターのCDもあったんだけど)ようやく会場を見渡すと、これまで見たものと作風がかなり変化している。
これまでの福井さんといえば、白と青を基調にしたシャープな造形や、犬や猫といった動物をモティーフとしていた。
白や青の作品は今回もあるが、この画像のように、黒いキャンドルは初めて見た。
いや、そもそも黒のキャンドルなんて、手がけている人なんてあんまりいないだろう。
しかもくもの巣のデザイン。ゴシック的だ。
「黒は、光は透けないけれど、炎がきわだつんです」
と福井さん。
冒頭画像は「Snow Crown」。
このシリーズの最大の特徴は、燃える速度の異なる2種のろうをたくみに組み合わせて、レースのような模様が外郭に残る仕組み。
黒いのは「Black Crown」。
はっ。
ここでやっと気づく、鈍い筆者。
ひょっとして「Progressive Candle」のプログレッシブって…。
プログレッシブ・ロックに由来しているのか。
日本では「プログレ」と略称で呼ばれることの多いプログレッシブ・ロックは、1960年代末から70年代にかけて隆盛になったジャンルで、複雑な構成や、クラシックやジャズを取り入れた曲調が特色で、長大でシンフォニックな曲も多い。
英国のイエス、キング・クリムゾン、ピンク・フロイド、エマーソン・レイク&パーマーといったバンドが有名だが、イタリアやドイツなど欧洲各国にも多くのバンドが登場した。
福井さんはプログレをはじめとするロック好きだったのだ。
これまで多様な作風を展開してきた福井さんの作品は「progressive=進歩的」という語にふさわしいと思っていたが、ここにきて、自分自身の好みをさらけ出すようになったのだろう。
自己に忠実であること。それは、言うほど易しくはない。
個展の直前に追加したというリンゴのキャンドルを見て、胸を打たれた。
毒リンゴのようだ。
かつて彼女は、パステルカラーのかわいらしいリンゴのキャンドルを作っていた。
そのほうが万人受けするのだろう。
でも、いま作っている傷んだリンゴのほうが、彼女自身が作りたくて作っているものなのだろう。
プロフェッショナルな作り手というものは、自分が作りたいものだけを作っているわけではない。
そういうプロもいることはいるが、ほんの一握りだろう。
大半のプロフェッショナルは心ならずも、売れるもの、多くの人に受けるものを作らなくてはならない。むしろアマチュアのほうが、自分の作りたいものを気楽に作っていける。
とはいえ、売れるものだけを作っていて、モチベーションや作品の質が保てるだろうか。
また、一方で、自分の欲求だけを優先して、良い作品が生み出せるのだろうか。
クライアントの意向にも目を向けつつ、自分の欲求を可能な限りで打ち出していくこと。
創造し続ける、ということは、ほんとうに難儀なことだとあらためて思うし、その難儀さを乗り越えて新境地を切り開いていこうとしている福井さんは、本物のプロフェッショナルなんだなあと思うのだった。
まあ、難しいことはともかく、こんどロックの話をしましょう(笑)。
2019年6月6日(木)~11日(火)午前11時~午後6時半(最終日~5時)
石の蔵ぎゃらりぃはやし(北区北8西1)
□Progressive Candle http://p-candle.shop-pro.jp/
□福井さんのブログ http://progressivecandle.blog21.fc2.com/
参考 □耳にバナナが(佐藤優子さんのブログ) https://mimibana.exblog.jp/30635978/
関連記事へのリンク
■福井優子 Progressive Candle (2015)
■Progressive Candle 福井優子キャンドル作品展 (2009)
■福井優子progressive candle展(2007)
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イエスのアルバムといえばやっぱり「CLOSE TO THE EDGE(邦題『危機』)」がいいなあ。でも、ラストの流れが好きなんです。
…などと会話をしたところで(じつは、机上にはドリームシアターのCDもあったんだけど)ようやく会場を見渡すと、これまで見たものと作風がかなり変化している。
これまでの福井さんといえば、白と青を基調にしたシャープな造形や、犬や猫といった動物をモティーフとしていた。
白や青の作品は今回もあるが、この画像のように、黒いキャンドルは初めて見た。
いや、そもそも黒のキャンドルなんて、手がけている人なんてあんまりいないだろう。
しかもくもの巣のデザイン。ゴシック的だ。
「黒は、光は透けないけれど、炎がきわだつんです」
と福井さん。
冒頭画像は「Snow Crown」。
このシリーズの最大の特徴は、燃える速度の異なる2種のろうをたくみに組み合わせて、レースのような模様が外郭に残る仕組み。
黒いのは「Black Crown」。
はっ。
ここでやっと気づく、鈍い筆者。
ひょっとして「Progressive Candle」のプログレッシブって…。
プログレッシブ・ロックに由来しているのか。
日本では「プログレ」と略称で呼ばれることの多いプログレッシブ・ロックは、1960年代末から70年代にかけて隆盛になったジャンルで、複雑な構成や、クラシックやジャズを取り入れた曲調が特色で、長大でシンフォニックな曲も多い。
英国のイエス、キング・クリムゾン、ピンク・フロイド、エマーソン・レイク&パーマーといったバンドが有名だが、イタリアやドイツなど欧洲各国にも多くのバンドが登場した。
福井さんはプログレをはじめとするロック好きだったのだ。
これまで多様な作風を展開してきた福井さんの作品は「progressive=進歩的」という語にふさわしいと思っていたが、ここにきて、自分自身の好みをさらけ出すようになったのだろう。
自己に忠実であること。それは、言うほど易しくはない。
個展の直前に追加したというリンゴのキャンドルを見て、胸を打たれた。
毒リンゴのようだ。
かつて彼女は、パステルカラーのかわいらしいリンゴのキャンドルを作っていた。
そのほうが万人受けするのだろう。
でも、いま作っている傷んだリンゴのほうが、彼女自身が作りたくて作っているものなのだろう。
プロフェッショナルな作り手というものは、自分が作りたいものだけを作っているわけではない。
そういうプロもいることはいるが、ほんの一握りだろう。
大半のプロフェッショナルは心ならずも、売れるもの、多くの人に受けるものを作らなくてはならない。むしろアマチュアのほうが、自分の作りたいものを気楽に作っていける。
とはいえ、売れるものだけを作っていて、モチベーションや作品の質が保てるだろうか。
また、一方で、自分の欲求だけを優先して、良い作品が生み出せるのだろうか。
クライアントの意向にも目を向けつつ、自分の欲求を可能な限りで打ち出していくこと。
創造し続ける、ということは、ほんとうに難儀なことだとあらためて思うし、その難儀さを乗り越えて新境地を切り開いていこうとしている福井さんは、本物のプロフェッショナルなんだなあと思うのだった。
まあ、難しいことはともかく、こんどロックの話をしましょう(笑)。
2019年6月6日(木)~11日(火)午前11時~午後6時半(最終日~5時)
石の蔵ぎゃらりぃはやし(北区北8西1)
□Progressive Candle http://p-candle.shop-pro.jp/
□福井さんのブログ http://progressivecandle.blog21.fc2.com/
参考 □耳にバナナが(佐藤優子さんのブログ) https://mimibana.exblog.jp/30635978/
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