小樽在住の小林大さんは、道展や北海道版画協会の会員であり、個展やグループ展など、さまざまな場に、活発に出品している。そういう会場では、かっちりと構成した銅版画を出していることが多いのだが、個展などでは、わりと大胆にインスタレーションなどを制作・陳列しているので、驚かされることがある。
今回もそういう個展のひとつ。
ト・オン・カフェの、向かって左側(窓から見たら、右側)の壁をどう使うかを考えて、案内状に使った少女の顔の像を中心に、取り巻く家族(やペット)の肖像を配列した、一種の平面インスタレーション「「猫釣」またはある家族の肖像」がひときわ目を引く。
小林さんに言われるまで、うかつにも気がつかなかったのだが、これは、ベラスケスの名画「ラス・メニーナス」に着想を得ているというのだ。
言われてみれば、上のほうには国王夫妻が描かれているし、右の紙には、部屋を今にも出て行こうとしている男(従者?)の姿がある。
してみれば、中央の少女は、マルガリータ王女というわけだ。
くだんの「ラス・メニーナス」がなぞめいているのと同様に、小林さんのこの作品も、不思議な感覚をたたえている。
左上の男の像は、「ラス・メニーナス」に画家自身が描かれているのと同様に、小林さんの自画像であるらしい。
中央の縦長の作品は、板に直接刷っているように見えるが、実際は雁皮とよばれる薄い紙に版画を刷って、それを板に貼ったという。
右下に、重りの代わりとして、鉄あれいを二つ結んだものを置いているのがおもしろい。
(そういえば、あれい状星雲というのがあるけれど、この鉄あれいは、星座絵のうお座のように、紐で結び付けられている)
反対側の壁には「オウム座の座標」「カメロパルダリス(CAMELOPARDALIS)」「静かな入り江」といった作品が並ぶ。
はじめから何かを描こうとして取り組んだ作というよりも、まず薬品で銅板の表面を荒らしてから、そこに浮かび上がる模様を手がかりに制作した作品だという。
ちなみに「カメロ―」とは、きりん座の意味。
設定された当初は、らくだ座だったらしい。
17世紀ごろの西洋では、ラクダとキリンの区別があいまいだったようだ。
具象とか抽象とか、そういう区別を超えた画面が、無意識のかなたから浮かび上がらせる。そんな作品にも感じられる。
小林さんの世界は、単なる銅版画の枠を超えたところにまで広がっている。
2015年11月3日(火)~15日(日)午前10時30分~午後10時(日曜~8時)、会期中無休
ト・オン・カフェ(札幌市中央区南9西3)
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