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■すごいぞ、これは!(2015年11月14日~12月25日、札幌)

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 実もふたもないタイトルがついているが、アウトサイダーアートの全国巡回展である。

(追記。このタイトルには、アウトサイダーアートとしてはおもしろい、という程度の感嘆ではない、心の底から「すごい」と、推薦者が叫べるほどの作品が集まっていますよ、という意味がこめられているのだと思う)

 アウトサイダーアートは、生きの芸術、アールブリュットともいう。厳密に言えば、アウトサイダーアートとアールブリュットの定義は異なるのだが、ここでは省略する。
 また、アウトサイダーアートの作者は、障碍者(とくに精神、発達の)が多い。このため、アウトサイダーアートと障碍者の芸術は同一視されることがよくある。
 しかし、いわゆる健常者でもアウトサイダーアートにくくられる場合もある。また、専門教育を受けていないことや、自ら作家を名乗って積極的な発表をしないことも、アウトサイダーアートの条件としてよく挙げられるが、今回の出品者12人のうち1人が、美術系の大学を卒業しており、厳密な線引きはなかなか難しい。

 今回は、文化庁などの主催で、全国の美術館学芸員らキュレーターが1人ずつ作家を推薦し、埼玉県立近代美術館を皮切りに巡回するもので、札幌は2カ所目となる。

 アウトサイダーアートというと、精神の状態が一般といささか異なる人が、神経症的な反復を続けたり、途方もない物語と世界観のもとに非写実的な絵を描いたりという先入観(というか偏見)が筆者にはあるが、今回は、そういう枠にとどまらず、多様な作品があったと思う。

 たとえば、冒頭のデコトラのミニチュアは、伊藤輝政さんという方の作品。
 伊藤さんは精神ではなく、心臓が弱いためずっと自宅で療養している。映画「トラック野郎」シリーズで見た、派手な装飾のトラック(デコトラ)にインスピレーションを受けて、厚紙で作り続けている。右翼の街宣車やクレーン車などもある。すごいのは、車輪やクレーンが可動式であること(会場では触れないけど)。

 こちらは、本田雅啓さんが、マネキンにペンキで彩色した「男性一世」と、奥は埼玉県立近代美術館でライブペインティングを行った「東京巣改津理井多輪阿」。この絵だけを見ているとわからないが、下地にはレモンイエローが使われていて、やはり絵の具の重ね塗りは大切だと思ったしだい。

 道内からは、胆振管内白老町の田湯加那子さんがエントリー。
 筆者は、田湯さんの絵といえば、花などを描いた作品しか知らなかったので、今回はちょっとびっくりした。テレビに出てくるシンガーやアイドルなどを派手な色彩で描いているのだ。あこがれの対象は異なるが、アロイーズの系統かもしれない。太く黒い輪郭線もあわせて。



 しかし、個人的に一番ぐっときたのは、「しろ」という名義で、ノート1ページぐらいの大きさの絵を描き続けている30代の女性だった。

 少年が学校でいじめられている現場の絵が多い。
 ゴミという札を貼られてごみ箱に突っ込まれていたり、ズボンをむりやり脱がされていたりする。その延長線上か、少年の体がばらばらになっていたりする絵もある。

 自分は、こういう絵には、共感できる。
 ある人にとっては、学校とは楽しいところだが、別のある人にとっては地獄でしかないこと。
 集団で他人に暴力をふるい、傷つけておきながら、スクールカーストの上位にいる人たちは、何の傷みも負うことなく卒業して、社会で笑ってすごしていること。
 そういう感覚が、わからない人のほうが、たぶん多数派なのではないかという気がする。

 ただ、ルサンチマンにとらわれているのは時間の無駄なので、昔のことは忘れて、ぜんぜん別のフィールドでがんばったほうが精神衛生上良いし、生産的だ。世の中には、中学のいじめっ子よりもまともな人間が大勢いる。
 しろさんは、家族以外の人と話をすることができないそうだが、過去のトラウマから解放される日の来ることを、心から願っている。



 あと、一言だけ展覧会について書いておけば、会場に参考書籍コーナーがあり、そのこと自体は大変良いと思うのだが、道内の展覧会図録がまったくないのはどうしたことだろう。
 旭川や江別でのアウトサイダーアートの展覧会の実績を黙殺しなくてもいいのにな、と思った。

 なお、画像を載せたのは、会場が写真撮影が可能だったのがこの2人の作品だったというだけで、ほかに理由はない。


 アウトサイダーアート一般について書きたいことがあったが、長くなってきたので別の機会に譲りたい。


2015年11月14日(土)~12月25日(金)、月曜休み(祝日の場合は翌火曜休み)
札幌芸術の森美術館(札幌市南区芸術の森)


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