北海道教育大学岩見沢校の舩岳紘行准教授が、筑波大で同級生で現在は奈良教育大准教授の狩野宏明さんと、2人展を、岩見沢に引き続き、札幌でも開いています。
2人は、筑波大の大学院の同じ部屋で、背中合わせの位置で制作に励んでいたとのことです。
ただ、東京などでは拠点とするギャラリーが違うこともあり、今回が初の2人展となりました。
両者の画風はシュルレアリスムやバロック美術に通底するような幻想性と細密描写という点で共通するものがあるともいえますが、もちろん、子細に見ていくとそれぞれに個性的です。
冒頭画像は「動き出す」。
舩岳さんの作品でも、とくに土俗的・神話的な色の濃い1枚だと思います。
中央の、石を積み上げたドルメン様のものから、ピンクのひもが飛び出していて、緑の雲のようなものとつながっています。
周辺にいる3人が驚いていますが、儀式や祭事で踊っているようにも見えます。
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手前は「白樺の森」。
シラカバの幹に、人間の目のような模様が見られること自体は珍しくないのですが、それがほんとうに目そっくりに描かれると、やはり不気味さや怖さを感じます。
中景には、頭部・胴体がピンク色の風船のようにふくらんだ異様な化け物がしゃがんだ女性と向き合っています。
ほかにも、少年の横で飛ぶ鳥に顔がついていたり、目が四つある雲のような怪物がいたり…。
「古事記」のような日本神話を思い起こす人もいれば、宮澤賢治の童話のうちダークな部分を想起する人もいるでしょう。
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しかし、筆者が今回の個展でいちばんびっくりしたのは、奥のエスキースのコーナーでした。
こういうコーナーには、デッサンや下書き、過去の個展の記録写真をおさめたファイルなどが並んでいるのが通例ですが、なんと、舩岳さん自作の立体模型があるのです!
「特撮みたいですよね」と舩岳さんは苦笑し「あまりイマジネーションがどんどん出てくるタイプではないので」と謙遜します。
なんだか「わかる、わかる」という気がします。舩岳さんは、立体を作って、克明にそれを写し取っているのではなくて、自分の中の制作モードを転換するきっかけのようなものとして立体を作っているのではないかと思うのです。
変な言い方ですが、スケッチブックに簡単に描いた物を、立体に落とし込んでいるうちに「ああ、ここはこうなっているのか」と納得できる部分もあるのではないでしょうか。
とはいえ、舩岳さんの過去作品に登場する巨大なタコの実物(といっていいのか)があるのは、驚きでした。
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狩野宏明さんの作品を見るのは初めてです。
舩岳さんにくらべると、狩野さんの場合は、絵に元ネタがある場合が多いようです。
フライヤーに印刷されていた「M-SCARFFOLOING」。この女性は、なんとミレー(フランス・バルビゾン派の画家)の肖像画に登場する彼の奥さんだそうです。
ミレーの最初の妻は結婚後わずか2年半で若くして亡くなってしまいます。
元ネタの肖像画には夫妻が並んでおり、左側の単眼のロボットみたいのがミレー本人ということになります。
どういうメタモルフォーゼが画家の脳内で行われているか見当もつきませんが、舩岳さんによると、狩野さんは筆が速いそうです。
描いているうちにどんどん変容していくのでしょう。
縞模様のようなものは、プリンターの出力時の失敗に着想を得たそうですが、筆者の目にはテレビモニタの走査線にも見え、周囲に配された不思議な機器類とともに、未来的なイメージを強めているようです。
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左側は「聖ゲオルギウスと竜」。
変形の支持体に描かれています。
言うまでもなくこの画題は、聖人が竜を踏みつけているイメージでおなじみですが、この絵では、下にいるはずの竜が上の方に配され、聖人の姿はどこにも見当たりません。
下の方に描かれた木馬は、聖人が騎乗していた馬を示唆するのでしょうか。
この絵の左側に展示されている「作業の跡」「臓腑の森の子守唄」
は、2012年と、今回の出品作では比較的古いもので、画面の中に大量の頭蓋骨や内臓が転がる、グロテスクな絵です。細密な筆遣いが描写力の高さを物語っています。
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「運ぶ者」。
油絵の具のほか、白堊やコラージュ、金箔、写真転写などさまざまな技法を駆使した作品。
筆者はこの画面に、初期の福沢一郎からロボットアニメまで、さまざまな要素の残響を見いだしましたが、何を読みとるのかはもちろん、見る側に委ねられているのでしょう。
確かなのは、これはお二人にいえることですが、こうした「見たことの無い」イメージを現出させることも、絵画に残されている仕事ではないのか、ということです。
2018年11月3日(土)~14日(水)午前10時~午後5時(最終日~4時)
北海道教育大学岩見沢校 BOX[i-BOX](岩見沢市有明町南 有明交流プラザ2階=JR岩見沢複合駅舎構内)
2018年11月16日(金)~29日(木)正午~午後8時、火曜休み
道教大アーツ&スポーツ文化複合施設 HUG(札幌市中央区北1東2 @IwaHug )
□舩岳紘行さんのサイト Hiroyuki Funaoka web site http://hiroyukifunaoka.net/
□狩野宏明さんのサイト http://kanoke.net/kanohiroaki/
関連記事へのリンク
■開館50周年記念/リニューアル記念 mima. 明日へのアーティストたちとともに 夢魔とポエジイ (2018年2~4月)
2人は、筑波大の大学院の同じ部屋で、背中合わせの位置で制作に励んでいたとのことです。
ただ、東京などでは拠点とするギャラリーが違うこともあり、今回が初の2人展となりました。
両者の画風はシュルレアリスムやバロック美術に通底するような幻想性と細密描写という点で共通するものがあるともいえますが、もちろん、子細に見ていくとそれぞれに個性的です。
冒頭画像は「動き出す」。
舩岳さんの作品でも、とくに土俗的・神話的な色の濃い1枚だと思います。
中央の、石を積み上げたドルメン様のものから、ピンクのひもが飛び出していて、緑の雲のようなものとつながっています。
周辺にいる3人が驚いていますが、儀式や祭事で踊っているようにも見えます。
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手前は「白樺の森」。
シラカバの幹に、人間の目のような模様が見られること自体は珍しくないのですが、それがほんとうに目そっくりに描かれると、やはり不気味さや怖さを感じます。
中景には、頭部・胴体がピンク色の風船のようにふくらんだ異様な化け物がしゃがんだ女性と向き合っています。
ほかにも、少年の横で飛ぶ鳥に顔がついていたり、目が四つある雲のような怪物がいたり…。
「古事記」のような日本神話を思い起こす人もいれば、宮澤賢治の童話のうちダークな部分を想起する人もいるでしょう。
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しかし、筆者が今回の個展でいちばんびっくりしたのは、奥のエスキースのコーナーでした。
こういうコーナーには、デッサンや下書き、過去の個展の記録写真をおさめたファイルなどが並んでいるのが通例ですが、なんと、舩岳さん自作の立体模型があるのです!
「特撮みたいですよね」と舩岳さんは苦笑し「あまりイマジネーションがどんどん出てくるタイプではないので」と謙遜します。
なんだか「わかる、わかる」という気がします。舩岳さんは、立体を作って、克明にそれを写し取っているのではなくて、自分の中の制作モードを転換するきっかけのようなものとして立体を作っているのではないかと思うのです。
変な言い方ですが、スケッチブックに簡単に描いた物を、立体に落とし込んでいるうちに「ああ、ここはこうなっているのか」と納得できる部分もあるのではないでしょうか。
とはいえ、舩岳さんの過去作品に登場する巨大なタコの実物(といっていいのか)があるのは、驚きでした。
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狩野宏明さんの作品を見るのは初めてです。
舩岳さんにくらべると、狩野さんの場合は、絵に元ネタがある場合が多いようです。
フライヤーに印刷されていた「M-SCARFFOLOING」。この女性は、なんとミレー(フランス・バルビゾン派の画家)の肖像画に登場する彼の奥さんだそうです。
ミレーの最初の妻は結婚後わずか2年半で若くして亡くなってしまいます。
元ネタの肖像画には夫妻が並んでおり、左側の単眼のロボットみたいのがミレー本人ということになります。
どういうメタモルフォーゼが画家の脳内で行われているか見当もつきませんが、舩岳さんによると、狩野さんは筆が速いそうです。
描いているうちにどんどん変容していくのでしょう。
縞模様のようなものは、プリンターの出力時の失敗に着想を得たそうですが、筆者の目にはテレビモニタの走査線にも見え、周囲に配された不思議な機器類とともに、未来的なイメージを強めているようです。
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左側は「聖ゲオルギウスと竜」。
変形の支持体に描かれています。
言うまでもなくこの画題は、聖人が竜を踏みつけているイメージでおなじみですが、この絵では、下にいるはずの竜が上の方に配され、聖人の姿はどこにも見当たりません。
下の方に描かれた木馬は、聖人が騎乗していた馬を示唆するのでしょうか。
この絵の左側に展示されている「作業の跡」「臓腑の森の子守唄」
は、2012年と、今回の出品作では比較的古いもので、画面の中に大量の頭蓋骨や内臓が転がる、グロテスクな絵です。細密な筆遣いが描写力の高さを物語っています。
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「運ぶ者」。
油絵の具のほか、白堊やコラージュ、金箔、写真転写などさまざまな技法を駆使した作品。
筆者はこの画面に、初期の福沢一郎からロボットアニメまで、さまざまな要素の残響を見いだしましたが、何を読みとるのかはもちろん、見る側に委ねられているのでしょう。
確かなのは、これはお二人にいえることですが、こうした「見たことの無い」イメージを現出させることも、絵画に残されている仕事ではないのか、ということです。
2018年11月3日(土)~14日(水)午前10時~午後5時(最終日~4時)
北海道教育大学岩見沢校 BOX[i-BOX](岩見沢市有明町南 有明交流プラザ2階=JR岩見沢複合駅舎構内)
2018年11月16日(金)~29日(木)正午~午後8時、火曜休み
道教大アーツ&スポーツ文化複合施設 HUG(札幌市中央区北1東2 @IwaHug )
□舩岳紘行さんのサイト Hiroyuki Funaoka web site http://hiroyukifunaoka.net/
□狩野宏明さんのサイト http://kanoke.net/kanohiroaki/
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