「群青ぐんせい展」は、5室あるギャラリー「アートスペース201」を2週間借り切って、写真や絵画、立体、工芸などさまざまな分野の作品を展示するグループ展。
毎年、いちばん寒い季節に開かれ、前半と後半で全作品を入れ替える。
昨年までは企画者の丸島均さんの名が、展覧会タイトルに入っていたが、今年はタイトルどころかフライヤーにまったく記載がない。かわりに、代表が若手写真家の阿部雄さんになっている。
とくにテーマは設けず、キュレーティングもないのは、北海道らしいといえばらしい。
あいかわらず出品者は多いが、会場を見た感じはこれまでに比べてすっきりしたという印象を持った。
6階のA室は写真5人展。
また、入り口のエレベーターホールに宍戸浩起さんと長内正志さんの写真が展示されている。
B室は伊藤也寸志写真展。これは別項で。
C室は「対展」と称して毎年開かれている2枚組みの写真展。
写真10人のほか、なぜか野崎翼さんだけが折り紙作品を展示している。
5階は、D・E室とも「元気展」という名(このネーミングセンスはどうにかならないのかと、毎年感じているが)で、6人ずつが絵画などを展示している。
まずA室。
冒頭画像は、村田主馬さん。
縦長の大きなプリントが8枚並んでいるが、これは実は、のぼりに印刷したとのこと。
軽くて丈夫だし、多少折っても平気だし、搬入・搬出もラクで、アイデア賞ものだと思う。
写真自体も、カラー、モノクロ4枚ずつを交互に並べ、人の目のアップ、赤い液体がこぼれた視覚障碍者用の黄色いタイル、翼を広げて飛ぶ鳥など、明快なイメージで目を引く。
キャプションに
「社会人になっても作品を発表する、ということがこんなにも大変なものだとは…」
という正直な心境が吐露されていた。
昨春、北星学園大を卒業し、札幌の団地をテーマにした写真で個展を開いていた村田さん。
無理なさらずに、頑張ってください。
高橋徹さん「いない家」。
すべて横位置のカラー33枚。
おそらく苫小牧の、住人がいなくなったとおぼしき家の中(外観の写真はない。人も、誰も写っていない)。
人の気配がするとも、しないとも、どちらにも解釈できる、絶妙のたたずまいを感じさせる写真群である。
仏壇の前に白い花が置かれた一枚があって、住人が亡くなったのだろうかと思うが、引っ越した後ともとれるし、詳細はよくわからない。そのことが、解釈の幅を広げ、むしろ見る人を引きつける。
台所。階段。ボイラー。オープンリールのテープデッキもあるオーディオコーナー。
干されたままの洗濯物。
どこにも人の姿は無い。
しかし、気配は濃厚だ。
筆者はどうしても本棚が気になってしまう。
この家の主は、どうやらSFファンだったらしく、ハヤカワ文庫がかなりあるほか、「SFマンガ大全集」といった文字が背表紙に読み取れる。
単行本では、筒井康隆のファンのようで「エロチック街道」「七瀬ふたたび」「エディプスの恋人」などがある。
また、サブカルチャーをよく特集していた1980年代の「宝島」や、読書好きなら知っている「本の雑誌」のバックナンバーがたくさん並んでいる。
さらに、社会学で一時さかんに読まれたエーリッヒ・フロム「自由からの逃走」、日本近代史学を代表する学者の大江志乃夫が書いた唯一の小説「凩の時」、サルトルの友人だったポール・ニザンの「アデン・アラビア」(全共闘世代なら書き出しだけは誰でも知っている)、樹村みのりや倉多江美の漫画(ツウだなあ…)、「フロイト著作集」、近代言語学の祖の入門書「ソシュールを読む」などもあって、どうやらけっこうなインテリだという印象を受ける。北杜夫「輝ける碧き空の下で」、五木寛之の大河小説「青春の門」、岩波美術館のシリーズもあった。
いかん。
つい長くなってしまった。
このほかの3人についても書かねば。
篠原奈那子さん。
中央バス札幌ターミナル地下にあった「自由空間」で開いた、大学卒業時の個展の印象がいまなお新しいが、今回は、カラー3枚の「甘くて優しいけど」、23枚の「2%」と、いずれも心象風景と重なり合うスナップである。
枯れ木、空、歩道橋の路面など、目線が下や上を向いているものが多いように思うが、筆者は松岡修造ではないので「前を向け!」などと励ますことはしない(笑)。
猪子珠寧さん「道しるべ」はモノクロ9枚を横一列に並べた。
素足にLED電球を何個か巻いて、自らシャッターを切って連続写真にしたもの。
がんじがらめになってはいるけれど、じぶんの足で歩いていくーという、秘めた決意を感じ取った。
猪子さんは、自宅でフィルム現像や焼き付けを行っている。
画像でいちばん大きく写っているのは米林和輝さんのモノクロプリント。
題はついていない。
フィルムをここまで引きのばすと、粒状性が出てくる。
うつっているのは、ススキノで撮ったとおぼしき人物のスナップで、どうしてこれをこんなに巨大にしたのかは判然としない。
C室「対展」。
右は橋本つぐみさん「いいよ忘れても」。
フィルムっぽい質感の、夜のスナップ。
舗道の「止まれ」という印字を撮った写真が1枚。左は、クリーニング店?の看板が小さく見える。なぜか、深い余韻を残す。
左は千葉貴文さん。
モノクロで、電力会社の鉄塔をとらえているのだが、題が「そして、鉄は灰になる。」とあり、無常観を漂わせる。
左は小林孝人さんのキノコの写真。
小林さんは2月、札幌・琴似のカフェ北都館ギャラリーで個展を開くとのことだ。
右の五十嵐和美さんも、自宅に暗室を設けてモノクロフィルムの現像・焼き付けに挑戦している人。
「視線」という題がついている。
仰向けになってミルクを飲んでいる知人の赤ちゃんの目つきがおもしろくて撮った、というようなことを話していた。
ほかに、次の通り。
おぎのようこ「はじまりなのか、おわりなのか」
古谷若菜「空虚」
樋口亮「行く道 来た道」
我妻禎大「お出かけ」
長内正志「選択」
神成邦夫「sign」
野崎翼「できるだけ遠くへ」
(神成さんの名が脱落していました。おわびして追加します)
長くなってしまったので、5階については、別項とします。
2019年1月24日(木)~29日(火)午前10時~午後7時(最終日~6時)
アートスペース201(札幌市中央区南2西1 山口中央ビル6階)
関連記事へのリンク
■第5回丸島均(栄通記)企画 群青 後期 ■続き (2018) 【告知】 (2018)
■第4回丸島均(栄通記)企画 群青―ぐんせい― (2017) ■続き
■nor-hay展 「林教司を偲ぶ会」(2018)=篠原さん出品
■「フィルム」岩田裕子、牧恵子、三好めぐみ、猪子珠寧写真展 (2017)
※5、6階はエレベーターで
(この項続く)
毎年、いちばん寒い季節に開かれ、前半と後半で全作品を入れ替える。
昨年までは企画者の丸島均さんの名が、展覧会タイトルに入っていたが、今年はタイトルどころかフライヤーにまったく記載がない。かわりに、代表が若手写真家の阿部雄さんになっている。
とくにテーマは設けず、キュレーティングもないのは、北海道らしいといえばらしい。
あいかわらず出品者は多いが、会場を見た感じはこれまでに比べてすっきりしたという印象を持った。
6階のA室は写真5人展。
また、入り口のエレベーターホールに宍戸浩起さんと長内正志さんの写真が展示されている。
B室は伊藤也寸志写真展。これは別項で。
C室は「対展」と称して毎年開かれている2枚組みの写真展。
写真10人のほか、なぜか野崎翼さんだけが折り紙作品を展示している。
5階は、D・E室とも「元気展」という名(このネーミングセンスはどうにかならないのかと、毎年感じているが)で、6人ずつが絵画などを展示している。
まずA室。
冒頭画像は、村田主馬さん。
縦長の大きなプリントが8枚並んでいるが、これは実は、のぼりに印刷したとのこと。
軽くて丈夫だし、多少折っても平気だし、搬入・搬出もラクで、アイデア賞ものだと思う。
写真自体も、カラー、モノクロ4枚ずつを交互に並べ、人の目のアップ、赤い液体がこぼれた視覚障碍者用の黄色いタイル、翼を広げて飛ぶ鳥など、明快なイメージで目を引く。
キャプションに
「社会人になっても作品を発表する、ということがこんなにも大変なものだとは…」
という正直な心境が吐露されていた。
昨春、北星学園大を卒業し、札幌の団地をテーマにした写真で個展を開いていた村田さん。
無理なさらずに、頑張ってください。
高橋徹さん「いない家」。
すべて横位置のカラー33枚。
おそらく苫小牧の、住人がいなくなったとおぼしき家の中(外観の写真はない。人も、誰も写っていない)。
人の気配がするとも、しないとも、どちらにも解釈できる、絶妙のたたずまいを感じさせる写真群である。
仏壇の前に白い花が置かれた一枚があって、住人が亡くなったのだろうかと思うが、引っ越した後ともとれるし、詳細はよくわからない。そのことが、解釈の幅を広げ、むしろ見る人を引きつける。
台所。階段。ボイラー。オープンリールのテープデッキもあるオーディオコーナー。
干されたままの洗濯物。
どこにも人の姿は無い。
しかし、気配は濃厚だ。
筆者はどうしても本棚が気になってしまう。
この家の主は、どうやらSFファンだったらしく、ハヤカワ文庫がかなりあるほか、「SFマンガ大全集」といった文字が背表紙に読み取れる。
単行本では、筒井康隆のファンのようで「エロチック街道」「七瀬ふたたび」「エディプスの恋人」などがある。
また、サブカルチャーをよく特集していた1980年代の「宝島」や、読書好きなら知っている「本の雑誌」のバックナンバーがたくさん並んでいる。
さらに、社会学で一時さかんに読まれたエーリッヒ・フロム「自由からの逃走」、日本近代史学を代表する学者の大江志乃夫が書いた唯一の小説「凩の時」、サルトルの友人だったポール・ニザンの「アデン・アラビア」(全共闘世代なら書き出しだけは誰でも知っている)、樹村みのりや倉多江美の漫画(ツウだなあ…)、「フロイト著作集」、近代言語学の祖の入門書「ソシュールを読む」などもあって、どうやらけっこうなインテリだという印象を受ける。北杜夫「輝ける碧き空の下で」、五木寛之の大河小説「青春の門」、岩波美術館のシリーズもあった。
いかん。
つい長くなってしまった。
このほかの3人についても書かねば。
篠原奈那子さん。
中央バス札幌ターミナル地下にあった「自由空間」で開いた、大学卒業時の個展の印象がいまなお新しいが、今回は、カラー3枚の「甘くて優しいけど」、23枚の「2%」と、いずれも心象風景と重なり合うスナップである。
枯れ木、空、歩道橋の路面など、目線が下や上を向いているものが多いように思うが、筆者は松岡修造ではないので「前を向け!」などと励ますことはしない(笑)。
猪子珠寧さん「道しるべ」はモノクロ9枚を横一列に並べた。
素足にLED電球を何個か巻いて、自らシャッターを切って連続写真にしたもの。
がんじがらめになってはいるけれど、じぶんの足で歩いていくーという、秘めた決意を感じ取った。
猪子さんは、自宅でフィルム現像や焼き付けを行っている。
画像でいちばん大きく写っているのは米林和輝さんのモノクロプリント。
題はついていない。
フィルムをここまで引きのばすと、粒状性が出てくる。
うつっているのは、ススキノで撮ったとおぼしき人物のスナップで、どうしてこれをこんなに巨大にしたのかは判然としない。
C室「対展」。
右は橋本つぐみさん「いいよ忘れても」。
フィルムっぽい質感の、夜のスナップ。
舗道の「止まれ」という印字を撮った写真が1枚。左は、クリーニング店?の看板が小さく見える。なぜか、深い余韻を残す。
左は千葉貴文さん。
モノクロで、電力会社の鉄塔をとらえているのだが、題が「そして、鉄は灰になる。」とあり、無常観を漂わせる。
左は小林孝人さんのキノコの写真。
小林さんは2月、札幌・琴似のカフェ北都館ギャラリーで個展を開くとのことだ。
右の五十嵐和美さんも、自宅に暗室を設けてモノクロフィルムの現像・焼き付けに挑戦している人。
「視線」という題がついている。
仰向けになってミルクを飲んでいる知人の赤ちゃんの目つきがおもしろくて撮った、というようなことを話していた。
ほかに、次の通り。
おぎのようこ「はじまりなのか、おわりなのか」
古谷若菜「空虚」
樋口亮「行く道 来た道」
我妻禎大「お出かけ」
長内正志「選択」
神成邦夫「sign」
野崎翼「できるだけ遠くへ」
(神成さんの名が脱落していました。おわびして追加します)
長くなってしまったので、5階については、別項とします。
2019年1月24日(木)~29日(火)午前10時~午後7時(最終日~6時)
アートスペース201(札幌市中央区南2西1 山口中央ビル6階)
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※5、6階はエレベーターで
(この項続く)