(承前)
網走の佐々木恒雄さんが札幌で個展を開くのは、4年前のト・オン・カフェ以来となる。
以前、札幌でクラブのフライヤーを描くなどの活動をしていた佐々木さんは、故郷に戻って、漁師をしながら絵画の制作を続けている。
佐々木さんの作品は具象絵画だが、イラストレーションとも、団体公募展ふうの構成画とも異なるたたずまいを感じさせる。網走での生活に根ざした絵、としか言いようがない。
だからといって、社会主義リアリズムふうの労働賛歌ではもちろんないし、ジャーナリスティックな面を持ち合わせた作品もあるのは確かだけれど、それ一辺倒でもない。
描法にも独自性はあるが、それより、絵のありようそのものが「佐々木恒雄の世界」だとしか言いようがないのだと思う。
冒頭画像の絵は、網走市中心部から駒場地区へ上っていく道道中園網走停車場線の擁壁に描かれている壁画が、或る日急に気になって、滞在制作の題材に取り上げたもの。
桂台駅のそばにあり、佐々木さんによると、1982年、市民有志でつくる「あおの会」が設立されて描いたもので、同年7月11日に除幕式を行っているという。
題材は、この附近でよく見られるハクチョウだが、直線的な処理がどこか流氷を連想させる。網走らしい壁画だと思う。
左端は「MaskARaid」。
札幌のラップデュオの名前で、彼らのファーストアルバム『Legality Profits』のジャケットデザインに採用された。
そのとなりは「ECD」。
以前、東京に行った際、たまたま国会議事堂の周辺で行われていたデモを見に行ったところ、目の前をスタスタと走って身軽に柵を乗り越えていった男性がいて、それが有名ヒップホップミュージシャンのECDさんだったという。そのときのようすを、記憶をもとに描いた。
ECDは、日本語ラップの草分けの一人として知られ、イラク戦争をきっかけに、安全保障関連法案や民族差別などに反対するデモにも積極的に参加していたが、昨年1月24日、57歳で死去した。
一瞬の強烈な印象と、音楽へのリスペクトが、同時に画面をひたひたと満たしている。
作品はほかに、アーティストの故村岸宏昭さんが2016年で没後10年を迎えたのを機に制作した「自転車」や、本人が「波三部作」と呼ぶ「SHELL #1」など。
波の絵も、三岸好太郎やクールベらいろいろな人が描いているけれど
「知りあいに見せると、この波はしけになりそうだって言うんですよ」
と笑って話す佐々木さんの言葉を聞くと、やはり、絵の成立している地点が、モダニスム芸術(芸術のための芸術)とは違っているとしかいえないと思う。
さて、1月20日のギャラリー巡りの記事はこれでおしまい。
とりあえず、未完のシリーズにならず、ホッとしているが、まだ書き終えていない記事はどっさり残っているのである。各位、すみません。
2019年1月15日(火)~20日(日)午前11時~午後7時
temporary space(札幌市北区北16西5)
□http://tsuneosasaki.com/
関連記事へのリンク
■佐々木恒雄展 “And Yet” (2014)
■生息と制作-北海道に於けるアーティスト、表現・身体・生活から 2013Mar.東京(12) (2013年4月)
■置戸コンテンポラリーアート (2012年)
■佐々木恒雄展「本日ノ庭」 (2009)
■ART! MEET! MART! (2008年)
(この項終わり)
網走の佐々木恒雄さんが札幌で個展を開くのは、4年前のト・オン・カフェ以来となる。
以前、札幌でクラブのフライヤーを描くなどの活動をしていた佐々木さんは、故郷に戻って、漁師をしながら絵画の制作を続けている。
佐々木さんの作品は具象絵画だが、イラストレーションとも、団体公募展ふうの構成画とも異なるたたずまいを感じさせる。網走での生活に根ざした絵、としか言いようがない。
だからといって、社会主義リアリズムふうの労働賛歌ではもちろんないし、ジャーナリスティックな面を持ち合わせた作品もあるのは確かだけれど、それ一辺倒でもない。
描法にも独自性はあるが、それより、絵のありようそのものが「佐々木恒雄の世界」だとしか言いようがないのだと思う。
冒頭画像の絵は、網走市中心部から駒場地区へ上っていく道道中園網走停車場線の擁壁に描かれている壁画が、或る日急に気になって、滞在制作の題材に取り上げたもの。
桂台駅のそばにあり、佐々木さんによると、1982年、市民有志でつくる「あおの会」が設立されて描いたもので、同年7月11日に除幕式を行っているという。
題材は、この附近でよく見られるハクチョウだが、直線的な処理がどこか流氷を連想させる。網走らしい壁画だと思う。
左端は「MaskARaid」。
札幌のラップデュオの名前で、彼らのファーストアルバム『Legality Profits』のジャケットデザインに採用された。
そのとなりは「ECD」。
以前、東京に行った際、たまたま国会議事堂の周辺で行われていたデモを見に行ったところ、目の前をスタスタと走って身軽に柵を乗り越えていった男性がいて、それが有名ヒップホップミュージシャンのECDさんだったという。そのときのようすを、記憶をもとに描いた。
ECDは、日本語ラップの草分けの一人として知られ、イラク戦争をきっかけに、安全保障関連法案や民族差別などに反対するデモにも積極的に参加していたが、昨年1月24日、57歳で死去した。
一瞬の強烈な印象と、音楽へのリスペクトが、同時に画面をひたひたと満たしている。
作品はほかに、アーティストの故村岸宏昭さんが2016年で没後10年を迎えたのを機に制作した「自転車」や、本人が「波三部作」と呼ぶ「SHELL #1」など。
波の絵も、三岸好太郎やクールベらいろいろな人が描いているけれど
「知りあいに見せると、この波はしけになりそうだって言うんですよ」
と笑って話す佐々木さんの言葉を聞くと、やはり、絵の成立している地点が、モダニスム芸術(芸術のための芸術)とは違っているとしかいえないと思う。
さて、1月20日のギャラリー巡りの記事はこれでおしまい。
とりあえず、未完のシリーズにならず、ホッとしているが、まだ書き終えていない記事はどっさり残っているのである。各位、すみません。
2019年1月15日(火)~20日(日)午前11時~午後7時
temporary space(札幌市北区北16西5)
□http://tsuneosasaki.com/
関連記事へのリンク
■佐々木恒雄展 “And Yet” (2014)
■生息と制作-北海道に於けるアーティスト、表現・身体・生活から 2013Mar.東京(12) (2013年4月)
■置戸コンテンポラリーアート (2012年)
■佐々木恒雄展「本日ノ庭」 (2009)
■ART! MEET! MART! (2008年)
(この項終わり)