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Channel: 北海道美術ネット別館
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■日本のアニメーション美術の創造者 山本二三展 (2018年12月1日~19年2月11日、札幌)

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 なにから書けばいいのか、とにかくすごかった。一口でいえば「うまい水彩画」なのだが、このうまさというのは、いわゆるスーパーリアリズムの、写真のようなうまさとは違う。もちろん、特撮映画のミニチュアのリアルさとも異なる。
 アニメーションの背景画というのは、手前でセル画の人間をスムーズに動かすために存在しており、本来はそれじたいを鑑賞するためのものではない。だから、絵画として強く主張するものではいけないし、写真のようなリアリティではセル画の人物が浮き上がってしまいアニメではなくなってしまう。
 わたしたちが映画館で目にするのは、どの絵も、ほんの一瞬でしかなく、しかも意識は人物のほうに向いているから、ほとんどじっくり見ないうちに去ってしまう絵ばかりということになる。
 にもかかわらず、野の花一本一本までの細部にわたるかきこみ、すみずみまで考え抜かれた時代考証や設定がなされていることをこの展覧会で知り、ほんとうに驚嘆を禁じえない。しかも、独立した絵画としても、それぞれの場所の空気感までが濁りのない色彩と確かな構図で表現されており、決して大きくないサイズ(写真の八つ切りぐらいか)なのにじっくりと味わえるのだ。

 山本さんは1953年(昭和28年)、長崎県福江市(現五島市)生まれ。
 岐阜県の定時制高校で建築を学んだ後、アニメーションの世界に入る。日本アニメーションに移籍後、78年にNHKの「未来少年コナン」で美術監督を任され(25歳!)、以降は「じゃりン子チエ」「天空の城ラピュタ」「もののけ姫」「火垂るの墓」「時をかける少女」など膨大な作品の美術監督を務める。
 今回は会場にそれらの作品の原画が2段がけでびっしりと並んでいる。
 出品されていない中にも、背景としてクレジットされている作品に「耳をすませば」「おもひでぽろぽろ」などがあり、「日本のアニメーション美術の創造者」という副題はあながち大げさではないと思うのだった。

 「じゃりン子チエ」のころから現在までクオリティがほとんど変わらないというのもすごい。
 それらの有名な作品もすごいが、個人的には「川の光」の、小さな草花から建物までをしっかり描いている一枚に心ひかれた。この人は、川も空も植物も、ほんとうによく見ているのだ。


 図録にインタビューが載っていて、そこでびっくりしたこと。
 「火垂るの墓」の際のエピソードである。

清太が節子に母の死を告げられず、校庭の鉄棒で大車輪をするシーンがあるのですが、それがなかなか描けなくて悩んでいると、高畑勲さんに描けない時は詩を読めって言われました。黒田三郎さんの『小さなユリと』を紹介されて読みました。その中の「給料取り奴」という詩が白々とした、ぽかあんとした白昼夢みたいな詩で。ああ、こういうのを描けばいいんだってスッとわかった。

 一見、まったく的外れのような、しかし実は的確なアドバイス(詩を読め!)をする高畑勲監督もすごいし、そのアドバイスを受けて絵の悩みが解決してしまう山本さんもすごすぎる。
 芸術というのはやはり、構図がどう、色彩がどうという「知」だけでは割り切れないもんなんだなあ。


2018年12月1日(土)~19年2月11日(月)午前10時~午後7時(最終入場は6時半)、元日のみ~午後6時(最終入場は5時半)、12月31日のみ休み
サッポロファクトリー3条館2階特設会場(中央区北2東4)




□HBC(北海道放送)の公式サイト http://www.hbc.co.jp/event/nizou/

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