(承前)
シンポジウムでは会場から
「デジタル、SNSの出現で、写真の持っている意味合いが変わりつつあるのではないか」
という質問が出たが、大下智一さんは
「メディアはどんどん動いていく。今回話した中でもダゲレオタイプ、湿板、銀塩フィルムと変わっている。そんな中でも変わらないものはある」
また、大友さんは
「カメラの技術は変わっていくもので、あまりこの先のことは考えていない。対応していけばいいと思う」
などと答えていた。
確かに写真の長い歴史を振り返ると、21世紀になってから起きたデジタルカメラへの転換とSNSの普及は、それ以前に比べて段違いに時代を画する変化だとは言い切れないだろう。
ただ、そういう議論を客席で聞きながら
「そうは言っても、撮影枚数が爆発的に増えたこと、瞬時に多くの人が見られるようになったことは、すごい変化だと思うんだけどなあ」
などと、ぼんやりと考えていた。
まあ、これは、「変わる」というべきか、「変わらない」というべきなのかは、どちらが正解という問題ではない。
時間がなかったので、シンポジウム終了後に、ロビーで開かれていた写真展を見た。
渡島管内長万部町のアマチュア写真家で、町内の写真集団「長万部写真道場」主催者の一人であった、澤博さん(故人)が残した膨大な写真について、町内外の有志でつくる長万部写真道場研究所が保管や整理に取り組んでおり、昨年に続いてその一部を紹介している。
展示されていたのはモノクロ19枚に加え、カラースライドのプリント14枚。
さらに大量のカラースライドを15分間のスライドショーにまとめている。
1960年代まではモノクロが主流であり、スライド用のリバーサルフィルムというのはかなり高価なものだったから、澤さんたちがふんだんに使用していたという事実にはちょっと驚く。
カラースライドの選択は大友さんが行ったようだ。
モノクロは、氷に乗って冬の川を下る人、にぎわう商店街、わき出た温泉に混浴でつかる人々、長万部駅にあったターンテーブル(蒸気機関車が方向転換するための回転台)など。
商店街は、いまはシャッターをおろしたままの店も多いが、写真では大勢の買い物客らが路上を歩いていて、隔世の感がある。よく見ると、いまも営業中の時計店の看板があり、ちょっと感激したが、同研究所代表で長万部生まれの中村絵美さんにその話をしたら
「でも、店の場所が移っているんですよ。これ、北洋銀行(当時は北洋相互銀行)の前から撮った写真だから、場所が合わないでしょ。この店の娘と同級生だったんで」
と、あっさり言われる。
地元出身(生まれは伊達とのことですが)の強みだなあと思う。これが、丁寧なキャプション(写真説明)づくりの土台になっているのだろう。
すこし補足すると、長万部は函館本線と室蘭本線が分岐する交通の要衝で、かつては国鉄職員が多く働く「国鉄のマチ」であった。
戦後、石油・ガスの試掘を行ったところ、温泉が噴き出し、町民が勝手に小屋を掛けて入った。石油は期待した埋蔵量がなかったらしい。
カラースライドで目を引くのが、冒頭画像でもチラッと見えているが、非常に高い位置から撮影した写真群である。
こんな田舎道に歩道橋などあるはずもなし、もちろんドローンなどもない時代。いったいどうやって撮ったんだろうと首をかしげていたが、やはり中村さんに尋ねて謎が解けた。
自動車の屋根にのぼって撮ったのだという。
澤さんは、あの時代の人にしては相当な長身だったから、まるで空中に浮かんで写したようなショットができたのだろう。
それにしても、貴重な記録だと、あらためて思う。
もうひとつ、今回の写真展で特筆しておきたいことは、昭和初期に長万部町民がアイヌ文化保存を呼びかけ発行した写真絵葉書「アイヌ古代風俗エカシケンル絵葉書」(函館中央図書館所蔵)5枚の複製を展示していること。
1931年(昭和6年)に「アイヌ古代の家エカシケンル」なる施設がオープンしていたことなど、まったく知らなかった。
アイヌ民族を「滅びゆく民」ととらえるなどの時代的制約はあるものの、貴重な文化を後代に伝えようという取り組みが早くからあったことは、長万部町民は誇って良いのではないかと思う。
正装してチセの前に並ぶアイヌ民族の男女や、舟をたくみにあやつる姿をとらえた絵はがきを見ると、これもまた一種の「開拓写真」と呼べるのかもしれない。
2019年2月19日(火)〜3月17日(日)午前10時~午後6時(木曜~午後8時)、月曜休館
長万部町学習文化センター(北海道山越郡長万部町字長万部)
□長万部写真道場研究所 occ-lab.org/
□北海道開拓写真協議会 http://hsp-web.jpn.org/
□こたつ島ブログ。2018年の長万部写真道場展の様子がくわしく書かれています。 http://kotatusima.hatenablog.com/entry/2018/04/01/%E3%80%8C%E9%95%B7%E4%B8%87%E9%83%A8%E5%86%99%E7%9C%9F%E9%81%93%E5%A0%B4_%E5%86%8D%E8%80%83%E3%80%8D%E2%91%A1_%E5%86%99%E7%9C%9F%E5%B1%95%E3%81%AE%E6%A7%98%E5%AD%90
長万部町学習文化センターへの道
(この項続く)
シンポジウムでは会場から
「デジタル、SNSの出現で、写真の持っている意味合いが変わりつつあるのではないか」
という質問が出たが、大下智一さんは
「メディアはどんどん動いていく。今回話した中でもダゲレオタイプ、湿板、銀塩フィルムと変わっている。そんな中でも変わらないものはある」
また、大友さんは
「カメラの技術は変わっていくもので、あまりこの先のことは考えていない。対応していけばいいと思う」
などと答えていた。
確かに写真の長い歴史を振り返ると、21世紀になってから起きたデジタルカメラへの転換とSNSの普及は、それ以前に比べて段違いに時代を画する変化だとは言い切れないだろう。
ただ、そういう議論を客席で聞きながら
「そうは言っても、撮影枚数が爆発的に増えたこと、瞬時に多くの人が見られるようになったことは、すごい変化だと思うんだけどなあ」
などと、ぼんやりと考えていた。
まあ、これは、「変わる」というべきか、「変わらない」というべきなのかは、どちらが正解という問題ではない。
時間がなかったので、シンポジウム終了後に、ロビーで開かれていた写真展を見た。
渡島管内長万部町のアマチュア写真家で、町内の写真集団「長万部写真道場」主催者の一人であった、澤博さん(故人)が残した膨大な写真について、町内外の有志でつくる長万部写真道場研究所が保管や整理に取り組んでおり、昨年に続いてその一部を紹介している。
展示されていたのはモノクロ19枚に加え、カラースライドのプリント14枚。
さらに大量のカラースライドを15分間のスライドショーにまとめている。
1960年代まではモノクロが主流であり、スライド用のリバーサルフィルムというのはかなり高価なものだったから、澤さんたちがふんだんに使用していたという事実にはちょっと驚く。
カラースライドの選択は大友さんが行ったようだ。
モノクロは、氷に乗って冬の川を下る人、にぎわう商店街、わき出た温泉に混浴でつかる人々、長万部駅にあったターンテーブル(蒸気機関車が方向転換するための回転台)など。
商店街は、いまはシャッターをおろしたままの店も多いが、写真では大勢の買い物客らが路上を歩いていて、隔世の感がある。よく見ると、いまも営業中の時計店の看板があり、ちょっと感激したが、同研究所代表で長万部生まれの中村絵美さんにその話をしたら
「でも、店の場所が移っているんですよ。これ、北洋銀行(当時は北洋相互銀行)の前から撮った写真だから、場所が合わないでしょ。この店の娘と同級生だったんで」
と、あっさり言われる。
地元出身(生まれは伊達とのことですが)の強みだなあと思う。これが、丁寧なキャプション(写真説明)づくりの土台になっているのだろう。
すこし補足すると、長万部は函館本線と室蘭本線が分岐する交通の要衝で、かつては国鉄職員が多く働く「国鉄のマチ」であった。
戦後、石油・ガスの試掘を行ったところ、温泉が噴き出し、町民が勝手に小屋を掛けて入った。石油は期待した埋蔵量がなかったらしい。
カラースライドで目を引くのが、冒頭画像でもチラッと見えているが、非常に高い位置から撮影した写真群である。
こんな田舎道に歩道橋などあるはずもなし、もちろんドローンなどもない時代。いったいどうやって撮ったんだろうと首をかしげていたが、やはり中村さんに尋ねて謎が解けた。
自動車の屋根にのぼって撮ったのだという。
澤さんは、あの時代の人にしては相当な長身だったから、まるで空中に浮かんで写したようなショットができたのだろう。
それにしても、貴重な記録だと、あらためて思う。
もうひとつ、今回の写真展で特筆しておきたいことは、昭和初期に長万部町民がアイヌ文化保存を呼びかけ発行した写真絵葉書「アイヌ古代風俗エカシケンル絵葉書」(函館中央図書館所蔵)5枚の複製を展示していること。
1931年(昭和6年)に「アイヌ古代の家エカシケンル」なる施設がオープンしていたことなど、まったく知らなかった。
アイヌ民族を「滅びゆく民」ととらえるなどの時代的制約はあるものの、貴重な文化を後代に伝えようという取り組みが早くからあったことは、長万部町民は誇って良いのではないかと思う。
正装してチセの前に並ぶアイヌ民族の男女や、舟をたくみにあやつる姿をとらえた絵はがきを見ると、これもまた一種の「開拓写真」と呼べるのかもしれない。
2019年2月19日(火)〜3月17日(日)午前10時~午後6時(木曜~午後8時)、月曜休館
長万部町学習文化センター(北海道山越郡長万部町字長万部)
□長万部写真道場研究所 occ-lab.org/
□北海道開拓写真協議会 http://hsp-web.jpn.org/
□こたつ島ブログ。2018年の長万部写真道場展の様子がくわしく書かれています。 http://kotatusima.hatenablog.com/entry/2018/04/01/%E3%80%8C%E9%95%B7%E4%B8%87%E9%83%A8%E5%86%99%E7%9C%9F%E9%81%93%E5%A0%B4_%E5%86%8D%E8%80%83%E3%80%8D%E2%91%A1_%E5%86%99%E7%9C%9F%E5%B1%95%E3%81%AE%E6%A7%98%E5%AD%90
長万部町学習文化センターへの道
(この項続く)