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■Post 3.11 in Sapporo 〜沈み行く記憶の淵で (2019年3月21~31日、札幌)

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 東日本大震災と、それに続く史上最悪の原発事故(東京電力福島第1原子力発電所事故)から8年が過ぎた。

 当時は美術界にも大きな影響を与え
「制作が手につかない」
というアーティストも多かったし
「アートに何ができるだろう」
と真剣に自問し、あるいは、実践を模索した人も多かった。
 2013年の「あいちトリエンナーレ」のテーマは、ずばり「揺れる大地」だった。

 しかし、わずか8年で、その記憶は急速に薄れつつある。

 そんな中で、震災をきっかけに東京から北海道(現在は、十勝管内豊頃町)に拠点を移した白濱雅也さんが「3.11」をテーマにしたグループ展を開催し続けていることは、注目に値する。

 これは、ほめ言葉だけど、「しつこい」のである。

 このしつこさは美徳だ。
 8年前にあれほど衝撃だったことを、じっくりと考え続け、問い続け、表現しようと試み続ける。
 そういう姿勢は、アーティストにとってほんとうに大事なことではないか。

 ニュースは消費財ではないし、アートはジャーナリズムではない。

 そういう意味で、この展覧会は非常に意義深い。
 男3・女2、道内2・道外3、絵画もインスタレーションもあり―というバランスも絶妙だ。


 冒頭画像は、企画者にして出品者である白濱さんの展示。

 「揺れる家」の総題のもとに、2012~19年の小品が20点集められている。
 バックは解体材で作られている。
 

 白濱さんの出身は岩手県釜石市。
 太平洋に面した街で、津波の直撃を受けた。
 白濱さんのいとこが、いまなお行方が分かっていないという。

 左下の方に青い絵がある。
 この絵「Marmaid Angel 2」「Marmaid Angel 3」は、新作。
 海の底に眠っているであろういとこに、翼をつけて天に昇ってほしいと天使にした、という。
 おびただしい死者への祈りをも、こめているのかもしれない。

 2枚目の画像、左手前に、流木でつくった円空仏のような彫刻がある。
 「穿穴童子」という新作。
 「震災の後、こけしやニポポなど見捨てられたものに目が行くようになった」
と白濱さん。
 新しい仏像のあり方を模索しているようだ。

 最上部、丸とバツを組み合わせたような絵は「死の印」(2013)。
 被災地の家の壁に多くみられたマーキング。遺体在り、回収済みの意味という。

 その左下は「Flagscape 1」(同)。
 被災地でたくさん見られた旗。「壊してください」の意味という。

 一方、右下の「Flagscape 2」(同)は、被災地の土を画材として用いている。

 そのほか
「降人魚神/翔人魚神」「揺れる家(連歌シリーズ)」「Dear Fruits」「Flogscape 3」「沈みゆく標識」「Flagscape 4」「飲み込む海」「融雪神」。
 立体は
「がれきの女神」
「水流神」(冒頭画像の手前)
「角材地蔵」
「穿穴地蔵」
「と金シリーズ 布袋様」
「と金シリーズ 大黒様Ver.1」。

 ご本人は謙遜されていたが、被災地にボランティアに行き、その地を深く見つめた人にしかできない作品群であると思う。


 安藤榮作さんは1961年東京生まれ、東京藝大卒。
 福島県いわき市を拠点に20年間活動していたが、震災で、海岸にあったアトリエ、自宅、作品などを失った。震災のときは、たまたま一家で、海岸から離れたショッピングセンターにいたため、命は助かったという。
 翌日、福島第1原発の事故が起き、被曝を避けるため、新潟を経由して奈良県まで逃げたという。

「たそがれている暇はなかった。ポジティブに、意識を希望のほうに向けていかないと、制作や生活を一から立て直すことはできなかった」
と、トークで話していた安藤さんの言葉が重い。
 ようやく昨年あたりから、苦しさのような思いも出していいのかなと思い始めたという。

 中央の木彫は、世界の構築の原点である「男と女」が畏敬の念をお互いにもっていかないと世界がほんとうに崩れてしまう―との思いから立てた柱のようなものだ。
 表面はなたでたたいて凹凸をつけている。
 この美術館に展示された作品の中でも、もっとも背の高いもののひとつではないだろうか。

 背後のドローイングは、ここで展示するために半分で切断したという。
 もったいないと思ったが、震災の後は、そのへんのこだわりはほとんど無くなってしまったのだと、安藤さんは話していた。
 時系列でいうと、下半分のほうが昔の、桃源郷のような情景で、右から左にいくにしたがって文明社会になり、左下と右上がつながっている。


 上半分は文明の世界で、地上が自動車であふれかえったあと、原発から煙が上がり、車や町が波に沈んでいく場面になる。
 墨による短いタッチが黙示録的な迫力を出している。


 会場中央のインスタレーションは、群馬県と帯広を拠点として活動している半谷学はんがいまなぶさんの「花降る」。
 不用になった傘から花が咲いて、それがふりそそぐ情景をあらわしている。

 半谷さんは2000年から、宮城県気仙沼市の漁師さんから、カキの養殖の妨げになるため駆除されている海藻をもらって、自作の素材にしていたため、震災のときは同市の知り合いとなかなか連絡がつかず、困ってしまったという。

 今回のトークで半谷さんは
「以前よりも、人の中に入って何かをしたいという気持ちがますます強まっている。美術家じゃない人の話は新鮮です。(不用の傘をもらいに)リサイクル工場にいくと、シルバー人材センターの人が仕分けについて熱く語ってくれます。この作品を作るようになって、ごみの分別をちゃんとやるようになりました」
などと言って会場を笑わせ、今回の作品については、NHKで流れる震災復興の歌「花は咲く」の影響があるとも話していた。


 ただ、トークで触れていなかった、ひとつのことを思い出した。
 傘は雨を避けるための道具だが、この「3.11」の文脈では「放射能の雨から身を守る」ためという意味も含意されているのだろう。

 さらには、相変わらずたくさん放置され捨てられる傘に、震災後も変わらない大量消費社会の暗部をも見ることができるだろう。
 あるいは、人と人のつながりの暗喩になっているのかもしれない。

 <核の傘に入るよりも自然という傘の花を咲かせませんか>
という作者のことばの末尾に、半谷さんの本気を見たように思った。

 画像で見ると、ストップモーションのように美しいが、実際にも幻想的な美しさをたたえた作品。


 首都圏から参加した女性2人はいずれも、震災に直接題材を得たというよりも、人間の「生と死」について深く考究した作品になっていると思う。

 横湯久美さんは、東京藝大の油画出身だが、近年は写真やテキストを組み合わせた作品を手がけているという。
 戦前戦中にも戦争反対の言動をやめずに非国民と呼ばれ、自分の生き方を貫いた祖母と自分のかかわりに、作品を通して目を向け、考え続けている。

 画像は、横湯さん一家が一時札幌・山の手に住んでいたときに近所で撮ったもので、サンフランシスコ近代美術館に所蔵されているという。
「あのころは地元のアートシーンに目を向ける余裕もなくて。ただ、祖母が『いまが幸せだ』と繰り返していた。静岡に帰りたいとそれまで言っていたのに『札幌の人がいちばん暖かい』とも言っていたんです。かつて住んでいたところのすぐそばの美術館で展示ができるなんて、感無量です」
 そして、祖母や母が戦後8年ですっかり立ち直ったとは思えないとし、8年で復興することの難しさを語っていた。


 最後は石塚雅子さん。
 左は「インドラ」、右は「吉祥」。

 「絵描きなので、言葉で説明するのが難しい。言葉にできないから、絵にしている。説明すると絵ではなくなってしまうので、絵を味わってしまうのが一番の願いです。トークではこれまでも地震のときの思いをしゃべってきた。それでも、言葉にできないことはある、ということを、この8年間で学んだ。きれいごとになってしまったり、言葉にすることで失われてしまうことがある」
というような意味のことを、石塚さんは話していて、これはこれで誠実な姿勢だと思った。

 石塚さんは最近、「法華経」を読んでいると話していた。
 亡くなった人が帰ってきてどこかでまた会えると信じている、きょう死んでも、いい人生だったと思える生き方ができるようになればいい、とも。

 淡々とした口調に、「法華経」といえば宮沢賢治だよなあと思い出していた。
 賢治も東北の津波の被害を知っていたはずだ。そして、彼には「インドラの網」という童話もある。


 以上、作品にこめられた作者の気持ちの重みにくらべれば、あまりにも雑駁で軽すぎるまとめになってしまっているのではないかという自責の念を逃れられないが、お許しください。
 とにかく、このような展覧会が開かれたということの重みを、ほんのちょっとでも記録に残すことができれば、ゼロよりは少し大きな意味があるのではないかと思いたい。


2019年3月21日(木)~31日(日)午前10時~午後5時、月曜休み
本郷新記念札幌彫刻美術館(札幌市中央区宮の森4の12)

参考リンク
□祭、炎上、沈黙、そして… POST3.11 https://post311.exblog.jp/
□原爆の図丸木美術館 http://www.aya.or.jp/~marukimsn/kikaku/2016/2016post311.html


□白濱さん公式サイトhttps://ameblo.jp/shirahamamasaya/
□Art Labo 北舟/NorthernArk https://mmfalabo.exblog.jp/
□ツイッター@shirahamamasaya

塔を下から組む―北海道百年記念塔に関するドローイング展 (2018)
(4)ゲストハウス×ギャラリープロジェクト Sapporo ARTrip「アートは旅の入り口」―最終日に行った会場のこと
裏物語 ヘンゼルとグレーテル ー帯広コンテンポラリーアート2016 ヒト科ヒト属ヒト
「北風太陽神」ー防風林アートプロジェクト


安藤栄作展 (2012、画像なし)


□石塚雅子 http://www.ishizukamasako.com/


□半谷学 http://www.hangais.com/art.htm
帯広コンテンポラリーアート2016 ヒト科ヒト属ヒト
防風林アートプロジェクト (2014)
六花ファイル第3回収録作家作品展 「秋の漂い 冬の群れ 半谷学展」 (2013、画像なし)




本郷新記念札幌彫刻美術館への行き方(アクセス)
本郷新記念札幌彫刻美術館からの帰り方

・地下鉄東西線「西28丁目」駅で、ジェイアール北海道バス「循環西20 神宮前先回り」に乗り継ぎ、「彫刻美術館入口」で降車。約620メートル、徒歩8分

・地下鉄東西線「円山公園」駅で、ジェイアール北海道バス「円14 荒井山線 宮の森シャンツェ前行き」「円15 動物園線 円山西町2丁目行き/円山西町神社前行き」に乗り継ぎ、「宮の森1条10丁目」で降車。約1キロ、徒歩13分
ばんけいバスも停車しますが、サピカなどのカードは使えません

・地下鉄東西線「西28丁目」「円山公園」から約2キロ、徒歩26分


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