札幌の中吉功さんといえば、青紫や水色といった澄んだ寒色を主体に、幻想味を帯びた風景画を思い出すが、今回の個展は、黄色い花を描いた作品や、マチエールを工夫した小品なども並んでいる。
1934年(昭和9年)生まれの大ベテランが
「新しいことをやってみようという気持ちが強くなりました。絵は『難しさがおもしろさ』ですね」
と話すのを聞くと、その意欲に脱帽せざるを得ない。
中吉さんの画業は80代半ばで、なおも進化しようとしているのだ。
冒頭画像の右側は「北辺晩秋」(P80)。
十勝の海岸沿いにある生花苗沼オイカマナイトーがモティーフ。
このあたりの汽水湖が続く渺々たる風景は筆者も好きだ。
透明感のある紫がかった空や水の色は中吉さんらしいが、草原のオーカーは、いつもの中吉さんの絵に比べ面積が多めに描かれている。
「華美ではない、自然の力強い美しさを感じさせる、いわば『北海道の原風景』ともいえる景色。平坦で、絵にするには難しいけれど、それも一つの冒険ですからね」
右端は「菜の花畑 安平」(F10)。
おなじくベテラン風景画家の香取正人さんとスケッチ指導の旅行に行った際に取材したもので、胆振管内安平町が昨年の北海道胆振東部地震で大きな被害を受ける少し前という。
となりのレンギョウの絵とあわせ、このような鮮やかな黄色を使った中吉さんの絵を見るのは、初めてだ。
「おもしろかった。色彩も排列も、無限に宿題があるようで、楽しいですね」
と画家は笑う。
「花A」から「花E」までサムホールが5点並ぶ。
砂のようなものをまぜて凹凸のあるマチエールを表現している。これも新しい試みだ。
つぎの画像は、右が「河畔とビル」、ひだりが「秋の河畔」。
いずれもF30。
札幌市内を流れる豊平川沿いを題材にしている。
中吉さんは若い頃、豊平川を描いた絵を「新北海」(のちに「北海タイムス」と合併した新聞)の紙上に取り上げられた思い出があるという。
「あの頃に比べると、風景はだいぶ変わりましたが、自然と組み合わさった都会の美というものがあります。札幌ならではのぜいたくだと思いますよ。身近な人は気づきにくいことですが」
と中吉さん。
藻岩山を隠すように高層の建物がたち並ぶ景色も、さらりと絵にしてしまうのだ。
最後の個展と銘打ってやりたくないーと中吉さんは言う。「小さい個展を毎年続けていきたい」
いつまでも健筆をふるっていただきたいと切に思うのだった。
なお、今回も、2015年に亡くなった和子夫人の写真をあわせて展示している。
リバーサルフィルムの硬めの色合いも、いいものだと思う。
中吉さんは道展会員、グループ環の会員。
他の展示作は次の通り。
晩秋の剣山 十勝 F10
花 F4(同題2点)
釧路湿原 秋 P10
花群 F6
駒ケ岳 秋 P8
菜の花 F4
さくらA F4
れんぎょ F4
花 黄色い花 F3
花咲く丘 F8
午後の湿原 雄阿寒岳遠望 F20
冬の河畔 F8
さくらB F6
2019年4月9日(火)~14日(日)午前10時半~午後6時半(最終日~5時)
さいとうギャラリー(札幌市中央区南1西3 ラ・ガレリア5階)
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