良い写真って、なんだろう。
世の中にはプロの写真家が大勢いて、顧客の要望に応じた写真を提供している。
そこでは、適正な露出と構図が評価され、どういう写真が良い写真なのかは疑問の余地があまりない。
しかし世の中には、誰のためでもなく、自分のために、自分自身を写すという人もいる。
そういう世界では既存のものさしが有効だろうか。
猪子さんは2016年にライカを手に入れ、自宅に引き伸ばし機を置いてから、モノクロフィルムによる撮影と作品づくりに、精力的に取り組んでいる。
今回は初の個展。
病気を患い、セルフポートレートを中心に70枚ほどを自らプリントし、パネルに貼り付けた。額装はなし。
ご本人は
「フォトショップが使えないので」
と謙遜するが、自ら現像・焼き付けするプロセスは、ほかの人々がレタッチソフトを用いてデジタル写真を仕上げていく過程とさして変わりないものだろう。
治療のための衣服をつけたり、あるいは肌をさらしたりして、カメラの前に立ち、セルフタイマーでシャッターを押す。
「ぶれてナンボ、ボケてナンボ」
と本人が言うように、提示されている写真は、世間一般の基準でいう「うまい写真」ではない。
しかし、まぎれもなく、そこには彼女自身が写し出されている。
言い換えれば、彼女自身がいる。
そういう種類の写真は、どのように判断すれば良いのだろう。
この個展は、見て良かったと心から思う。
ただ、ちょっと意地悪な言い方になるかもしれないが、それは、病気を克服して自らを撮り続ける彼女の姿勢に感動したのか、それとも作品そのものが良かったのか、よくわからなくなってしまうのだ。
もちろん、ブレたりボケたりしているからだめだというつもりはない。
それであれば、たとえば中平卓馬が1970年に撮った数々の写真が駄作ということになってしまうだろう。
セルフポートレートの間に、ネットフェンスのような「ガラスのピラミッド」のスナップや、木々の写真が、ところどころ挟まっている。
こういうインターバル的なショットが、もう少しあれば、画像のつながりに奥行き感がもっと出たかもしれないだろう。
後で思ったのだけど、人が共感する写真は、必ずどこかに作者との通路が開かれている。インターバルのようなスナップは、共感の通路の役割を果たすのたと思う。
でも、そういうふうな演出あるいは作為を導入することと「自分自身に向き合う」こととは、果たして両立するのだろうか。
ブレとボケではっきりと見えない裸身が、作者自身にとっての真実ではないのか。
…そんなことを考えれば考えるほど、わからなくなってきた。
ただ、札幌ではめったに見られないタイプの写真展だということだけは間違いない。凡庸なイベント写真やネイチャーフォトなどとは一線を画す、真摯な作品である。
なお、写真展タイトルの「Rose」は、女優のベット・ミドラーが、自ら主演する同題の映画で歌った主題歌。 1979年のヒットのときは、リアルタイムで聴いていた。
この歌に励まされた人は多いと思う。昨年亡くなった高畑勲監督のアニメ映画『おもひでポロポロ』のラストシーンでも日本語のカバーが流れていた。
末尾にYouTube を貼っておいたので、ぜひご覧ください。
2019年5月11日(土)~19日(日)正午~午後8時(最終日~6時)、水休み
pecoranera gallery(札幌市中央区南6西23 @pecoranera117 )
□https://junei-rose-sapporotenten.localinfo.jp/
関連記事へのリンク
■第6回 群青 -2週間10部屋の展覧会- 【前期】(2019年1月)
■「フィルム」岩田裕子、牧恵子、三好めぐみ、猪子珠寧写真展 (2017)
地下鉄円山公園駅から pecoranera(ペコラネラ)への道順(アクセス)
・地下鉄東西線「円山公園駅」で以下のジェイアール北海道バスに乗り継ぎ、「南7条西25丁目」降車、約230メートル、徒歩3分
「循環円10 ロープウェイ線」
「循環円11 ロープウェイ線」
「円11 西25丁目線」
「桑11 桑園円山線」
「円13 旭山公園線」
・地下鉄東西線「円山公園駅」から約970メートル、徒歩13分
・ジェイアール北海道バス「53 啓明線」(JR札幌駅、大通西4丁目―啓明ターミナル)で「南7条西25丁目」降車、約230メートル、徒歩3分
・市電「西線6条」から約1キロ、徒歩14分
※周辺にコインパーキングあります。
The Rose [日本語訳付き] ベット・ミドラー
世の中にはプロの写真家が大勢いて、顧客の要望に応じた写真を提供している。
そこでは、適正な露出と構図が評価され、どういう写真が良い写真なのかは疑問の余地があまりない。
しかし世の中には、誰のためでもなく、自分のために、自分自身を写すという人もいる。
そういう世界では既存のものさしが有効だろうか。
猪子さんは2016年にライカを手に入れ、自宅に引き伸ばし機を置いてから、モノクロフィルムによる撮影と作品づくりに、精力的に取り組んでいる。
今回は初の個展。
病気を患い、セルフポートレートを中心に70枚ほどを自らプリントし、パネルに貼り付けた。額装はなし。
ご本人は
「フォトショップが使えないので」
と謙遜するが、自ら現像・焼き付けするプロセスは、ほかの人々がレタッチソフトを用いてデジタル写真を仕上げていく過程とさして変わりないものだろう。
治療のための衣服をつけたり、あるいは肌をさらしたりして、カメラの前に立ち、セルフタイマーでシャッターを押す。
「ぶれてナンボ、ボケてナンボ」
と本人が言うように、提示されている写真は、世間一般の基準でいう「うまい写真」ではない。
しかし、まぎれもなく、そこには彼女自身が写し出されている。
言い換えれば、彼女自身がいる。
そういう種類の写真は、どのように判断すれば良いのだろう。
この個展は、見て良かったと心から思う。
ただ、ちょっと意地悪な言い方になるかもしれないが、それは、病気を克服して自らを撮り続ける彼女の姿勢に感動したのか、それとも作品そのものが良かったのか、よくわからなくなってしまうのだ。
もちろん、ブレたりボケたりしているからだめだというつもりはない。
それであれば、たとえば中平卓馬が1970年に撮った数々の写真が駄作ということになってしまうだろう。
セルフポートレートの間に、ネットフェンスのような「ガラスのピラミッド」のスナップや、木々の写真が、ところどころ挟まっている。
こういうインターバル的なショットが、もう少しあれば、画像のつながりに奥行き感がもっと出たかもしれないだろう。
後で思ったのだけど、人が共感する写真は、必ずどこかに作者との通路が開かれている。インターバルのようなスナップは、共感の通路の役割を果たすのたと思う。
でも、そういうふうな演出あるいは作為を導入することと「自分自身に向き合う」こととは、果たして両立するのだろうか。
ブレとボケではっきりと見えない裸身が、作者自身にとっての真実ではないのか。
…そんなことを考えれば考えるほど、わからなくなってきた。
ただ、札幌ではめったに見られないタイプの写真展だということだけは間違いない。凡庸なイベント写真やネイチャーフォトなどとは一線を画す、真摯な作品である。
なお、写真展タイトルの「Rose」は、女優のベット・ミドラーが、自ら主演する同題の映画で歌った主題歌。 1979年のヒットのときは、リアルタイムで聴いていた。
この歌に励まされた人は多いと思う。昨年亡くなった高畑勲監督のアニメ映画『おもひでポロポロ』のラストシーンでも日本語のカバーが流れていた。
末尾にYouTube を貼っておいたので、ぜひご覧ください。
2019年5月11日(土)~19日(日)正午~午後8時(最終日~6時)、水休み
pecoranera gallery(札幌市中央区南6西23 @pecoranera117 )
□https://junei-rose-sapporotenten.localinfo.jp/
関連記事へのリンク
■第6回 群青 -2週間10部屋の展覧会- 【前期】(2019年1月)
■「フィルム」岩田裕子、牧恵子、三好めぐみ、猪子珠寧写真展 (2017)
地下鉄円山公園駅から pecoranera(ペコラネラ)への道順(アクセス)
・地下鉄東西線「円山公園駅」で以下のジェイアール北海道バスに乗り継ぎ、「南7条西25丁目」降車、約230メートル、徒歩3分
「循環円10 ロープウェイ線」
「循環円11 ロープウェイ線」
「円11 西25丁目線」
「桑11 桑園円山線」
「円13 旭山公園線」
・地下鉄東西線「円山公園駅」から約970メートル、徒歩13分
・ジェイアール北海道バス「53 啓明線」(JR札幌駅、大通西4丁目―啓明ターミナル)で「南7条西25丁目」降車、約230メートル、徒歩3分
・市電「西線6条」から約1キロ、徒歩14分
※周辺にコインパーキングあります。
The Rose [日本語訳付き] ベット・ミドラー