(承前)
2013年に東京から札幌に移ってきた林美奈子さんの、ギャラリー犬養では8度目となる個展。
筆者がこれまで彼女の個展をあまり取り上げてこなかったのは、正直に書くと、紙という素材の脆弱ぜいじゃく性に懸念を持っていたからである。
しかし、今回の個展で、紙(とくに古い紙)という素材に対する愛情のほどを彼女自身の口から聞いて、それはどうでもいいことなのではないかと思うようになった。
確かにファン・エイク兄弟が板に描いた油絵が600年近くたっても変色していないことを思えば、紙は弱い。とはいえ、すべての油彩が600年後も残るわけではない。自作がマスターピースとなって、自分の死後も次の世代に受け継がれることを夢見るのは自由だが、そういう可能性は実は低い。
そんな夢よりも、いま生きている人が、生きている間の数十年間、作品をめでてくれることを望むほうが、現実的ではないか。
そんな気がしてきたのだ。
冒頭画像、左側は「レシピブローチ」。
英語で書かれたレシピの紙をもとに手作りした。
その右は「光の葉」。
今回の個展で林さんから聞いた、いちばん気に入った話は、彼女は古書店などでこれらの素材を入手したわけではなく
「紙好きということが知れ渡ったので、友人などからどんどん集まってくる」
ということ。
好みに沿ったものを選択するよりも、何かの縁で自然に集まってくるもののほうが、おもしろいといえるかもしれない。
この作品の元になっている、戦前の「アンデルセン童話集」の文庫本も、そうやって入手したそう。
その本から自分の好きなことばを切り抜き、建築関係の青いグラフ紙と組み合わせて、小瓶の中に入れている。
たとえば
森の緑
図書館
地下室
書き古した紙
人を笑はす
研究
といったぐあい。
一種のビジュアル・ポエトリーといえるかもしれない。
ちなみに、上のほうにある木の箱には、おなじ童話集のページがばらばらにされて詰め込まれている。
林さんは、古い紙の日焼けした色が好きらしくて、それらの紙の色の違いを生かして貼り合わせたコラージュ作品もあった。
こちらは「365」。
女性の肖像の古写真が手に入ったので、彼女たちの人生(あるいは一年)を想像して、それに合うような紙片365枚をつりさげた作品。
右側は葉のような紙片を付けている。
このほか、箱の中に光を入れて中をのぞきこむ「あの日の光」や、コラージュ作品「うわのそら」「Kew Garden へ」など多彩な作品が並んでいる。
林さんは大学では美術でなく国文学を学んでいたそうで、作品には美大っぽさが無いことがむしろ美質になっているように思われる。世の中には、美術学校の出身よりも本好きのほうが多いと思うので、そのことはぜんぜん心配するに及ばないのではないだろうか。
林さんの場合、文章の内容よりは、紙の手触りに焦点を当てた作品が目立つが、かえって、昔読んだ本の思い出を触発される。
2019年5月15日(水)~27日(月)午後1時~9時、火曜休み
ギャラリー犬養(札幌市豊平区豊平3の1)
□blog 紙と薄荷と古本と http://hayashiminako.blog33.fc2.com/
ギャラリー犬養への道 (アクセス)
・地下鉄東西線「菊水駅」2番出口から約550メートル、徒歩7分
・中央バス「豊平橋」から約280メートル、徒歩4分
・地下鉄東豊線「学園前」駅から約980メートル、徒歩13分
(札幌市民ギャラリーから約930メートル、徒歩12分)
2013年に東京から札幌に移ってきた林美奈子さんの、ギャラリー犬養では8度目となる個展。
筆者がこれまで彼女の個展をあまり取り上げてこなかったのは、正直に書くと、紙という素材の脆弱ぜいじゃく性に懸念を持っていたからである。
しかし、今回の個展で、紙(とくに古い紙)という素材に対する愛情のほどを彼女自身の口から聞いて、それはどうでもいいことなのではないかと思うようになった。
確かにファン・エイク兄弟が板に描いた油絵が600年近くたっても変色していないことを思えば、紙は弱い。とはいえ、すべての油彩が600年後も残るわけではない。自作がマスターピースとなって、自分の死後も次の世代に受け継がれることを夢見るのは自由だが、そういう可能性は実は低い。
そんな夢よりも、いま生きている人が、生きている間の数十年間、作品をめでてくれることを望むほうが、現実的ではないか。
そんな気がしてきたのだ。
冒頭画像、左側は「レシピブローチ」。
英語で書かれたレシピの紙をもとに手作りした。
その右は「光の葉」。
今回の個展で林さんから聞いた、いちばん気に入った話は、彼女は古書店などでこれらの素材を入手したわけではなく
「紙好きということが知れ渡ったので、友人などからどんどん集まってくる」
ということ。
好みに沿ったものを選択するよりも、何かの縁で自然に集まってくるもののほうが、おもしろいといえるかもしれない。
この作品の元になっている、戦前の「アンデルセン童話集」の文庫本も、そうやって入手したそう。
その本から自分の好きなことばを切り抜き、建築関係の青いグラフ紙と組み合わせて、小瓶の中に入れている。
たとえば
森の緑
図書館
地下室
書き古した紙
人を笑はす
研究
といったぐあい。
一種のビジュアル・ポエトリーといえるかもしれない。
ちなみに、上のほうにある木の箱には、おなじ童話集のページがばらばらにされて詰め込まれている。
林さんは、古い紙の日焼けした色が好きらしくて、それらの紙の色の違いを生かして貼り合わせたコラージュ作品もあった。
こちらは「365」。
女性の肖像の古写真が手に入ったので、彼女たちの人生(あるいは一年)を想像して、それに合うような紙片365枚をつりさげた作品。
右側は葉のような紙片を付けている。
このほか、箱の中に光を入れて中をのぞきこむ「あの日の光」や、コラージュ作品「うわのそら」「Kew Garden へ」など多彩な作品が並んでいる。
林さんは大学では美術でなく国文学を学んでいたそうで、作品には美大っぽさが無いことがむしろ美質になっているように思われる。世の中には、美術学校の出身よりも本好きのほうが多いと思うので、そのことはぜんぜん心配するに及ばないのではないだろうか。
林さんの場合、文章の内容よりは、紙の手触りに焦点を当てた作品が目立つが、かえって、昔読んだ本の思い出を触発される。
2019年5月15日(水)~27日(月)午後1時~9時、火曜休み
ギャラリー犬養(札幌市豊平区豊平3の1)
□blog 紙と薄荷と古本と http://hayashiminako.blog33.fc2.com/
ギャラリー犬養への道 (アクセス)
・地下鉄東西線「菊水駅」2番出口から約550メートル、徒歩7分
・中央バス「豊平橋」から約280メートル、徒歩4分
・地下鉄東豊線「学園前」駅から約980メートル、徒歩13分
(札幌市民ギャラリーから約930メートル、徒歩12分)