相原求一朗については、4~5月に道立近代美術館で開かれていた絵画展を見た方も多いだろう。
彼のデッサンが六花亭札幌本店のギャラリー柏で開かれている。
筆者が訪れたときには、会場には誰ひとりおらず、静まり返っていた。
筆者は思った。
「ああ、こういう会場で、相原求一朗の絵と向き合いたかった」
展示されているのはデッサン80点と油彩1点。
デッサンのうち比較的サイズの大きな、いちばん手前に貼られているものにだけ「狩勝峠・冬」という題が付されているが、あとは無題。油彩にも題はついていないん。
大まかにいうと、右手(西側)の壁には町並みが、正面(南側)の壁には油彩と、道内の自然を描いたデッサンが、
そして左手(東側)には海外でのスケッチが、それぞれ並んでいる。
冒頭の左側にあるのは「雪の停車場」(1976)のもとになったデッサンだろう。
ただし、完成した絵の左手に描かれていた冷蔵貨車の姿はない。
(どうでもいい話だが、この絵の貨車に記されている記号は誤っている。トムじゃなくて、レムが正解のはず)
右手の、背の高い小屋は木材をたてかけておくものと思う。以前は内陸の多くの駅で見られたものだ。
このほか「ウトロ」「網走」「OTARU 23 Nov 75」「HAKODATE Sep '86」「SAPPORO Nov.75」などと下のほうに書かれているものもあるが、場所が書いてないものも多い。
「萩ケ岡駅 士幌-糠平」とあるのは、すでに廃止された旧国鉄士幌線だろう。
「美唄にて」とあるもの、昔の小樽運河を描いたものもある。
ひとつひとつが懐かしさと、自然の中に理想のかたちを求める精神のきびしさとに満ちている。
冬の林を描いた絵には「豊羽」と記されたものもある。
札幌市南区定山渓の奥にあった鉱山の名だ。
相原さんはそんなところにまで赴いて、寒い中でスケッチブックに鉛筆やコンテを走らせていたのだろうか。
左手の壁には、ニューヨークやパリのシテ島などのデッサンがある。
珍しいところではサンフランシスコで開かれたロータリーインターナショナル大会の模様を描いたものもあり、月刊誌のアンケートで「日本人で好きな画家」の3位に選ばれたほどの画家が家業のためにとはいえロータリークラブの地区ガバナーまでやっていたのかと、なんだか悲しくなる。本人がどう思っていたのかはわからないが。
入り口の壁に大きく書かれていた本人自筆の「デッサンについて」をここに引いておく。
大自然には、完璧な形と、
リズムがある。
それは、のびやかで自由、そして
厳しく、観る者の心を捉えて、
歓びと勇気を喚び起す。
造形を志す者は
それに近づくには、どうあるべきか、
その追求こそが作家の宿命で
あり、生きる証しでもある。
デッサンは、作家が表現しようと
する対象を、どう認識し
造形を意図しているか、
言い換えれば、大自然のあり様に
どこまで近づいているかを、率直に
示すものである。
相原求一朗
一部漢字を改めた。
何度でも読み返して、かみ締めたい言葉だ。
2019年3月4日(月)~6月16日(日)午前10時~午後7時
ギャラリー柏(札幌市中央区北4西6 六花亭札幌本店 5階)
■生誕100年 歿後20年 相原求一朗の軌跡(2019)
・JR札幌駅から約460メートル、徒歩6分
・地下鉄さっぽろ駅「アスティ45」出入り口から約210メートル、徒歩3分