道内の木版画を代表する故・大本靖さんの作品が50点以上もそろっているのだから、つまらないはずがない。
思えば、札幌芸術の森美術館での大規模な個展から12年もたっているのだ。
よくある風景画とはひと味もふた味も違う、造形への厳しい意思のつたわる作品ぞろいで、見応えじゅうぶんだ。
しかも文学館の特別展としては珍しく、無料なので、おすすめです。
今回は、連作「蝦夷二十一景」(1972年)をはじめとする、道内各地を描いた版画に、それぞれの地に題材を得た文学作品(小説や随筆は抜粋)を添えるという、文学館としてはありがちな企画といえるが、これが案外おもしろいのだ。
写真や写実的な絵画だと、どうしても文学作品の鑑賞の方向性を狭めてしまいがちだが、適度に省略のきいた絵だと、見る側が想像力を働かせる余地が残るのである。
たとえば「夕日の釧路川」という版画には、原田康子『挽歌』の一節と、さらに石川啄木の
しらしらと氷かがやき千鳥なく釧路の海の冬の月かな
が添えられている。
大本靖本人のひとことが付してある作品も多い。
また、次の「冬の摩周」「コバルトの摩周湖」という版画には、八木義徳の小説「摩周湖」、更科源蔵の詩「摩周湖」、伊藤凍魚の俳句が添えられている。
こんな調子なので、じっくり読んでいくと30分はゆうにかかってしまう。
このほか、題材はペンケトー、野付半島、知床、オホーツク海の流氷、羊蹄山、大沼、昭和新山、支笏湖、函館、札幌など全道にまたがっているが、全体を通して作品数がいちばん多いのは、大雪山系を題材にした作。
毎年のようにスケッチのため登山に出かけていたらしい。
こうしてみると、山や湖は多いが、海は意外と少ない。
海を描いた作品もあるが、その多くは、海岸に咲くハマナスが主役になっている。
また「蝦夷二十一景」が制作された1972年当時は、小樽や富良野はまったく観光地として認知されていなかったことがよくわかる。今回は、富良野の北の美瑛町をとりあげた「BIEI」と題された作品はあるものの、小樽や富良野を題材にした版画は一枚もない。
小樽運河もラベンダー畑もまだ整備前だったのだ。
また、地名とは関係ない、「北の樹木」シリーズもあり「ダケカンバ」「春山の樹」など5点が並ぶ。
ほぼモノトーンで構築された画面は、緊張感をたたえる。
大本靖さんは1926年、小樽生まれ。
3歳から20歳まで主に札幌で過ごす。
44年に入隊。大学は明大に進む。
54年、札幌版画協会を旗揚げ。のちに北海道版画協会に発展する。
作品は、他に次の通り(とにかく、かなりの分量です)。
「暮日の湖面」「初秋の湖畔」(然別湖)
「新緑のペンケ沼」「ペンケ沼」(ペンケトー)
「NOKKE」「野付半島の枯れ木群」
「羅臼」「知床の滝」
「北のかたち<氷>」「Creak」「流氷の春」「流氷のオホーツク」「流氷の網走港」
「能取湖のサンゴ草」
「サロベツ原野と利尻富士」
「層雲峡」「黒岳と層雲峡」「雲の平」「トムラウシ」「大雪連山と花」「北ちんママ岳とコマクサ」「エゾコザクラ」「黒岳とエゾコザクラ」「三井ケ原」「北の山」(以上、大雪山系)
「マッカリの山」「浅緑」「南西のかぜ」「初夏の山」「エゾ富士」(以上羊蹄山)
「大沼の春」「大沼と駒ケ岳」
「函館のガンガン寺」
「暮日の積丹」
「昭和新山」「しん山」
「秋の中山峠」
「早春の日高海岸」
「青の支笏湖」
「緑のオコタンペ湖」
「ISHIKARI」「河口辺り」
「秋の北大農場」「白壁の建物」「秋の道庁 P」「秋の道庁 B」「赤レンガの道庁」
「北のかたち<海>」「でいたんのうた」
銀のシリーズ
「北の湿原」「北の桜」「寒塩引」など計5点
蔵書票57点(時計台、タンチョウ、フクロウなど)
小品10点以上
「北方文芸」創刊号目次などカット5点
道立文学館の特別展示室は、もともと直筆原稿や本などを並べるためのスペースなので油彩や現代アートの展示には狭いが、版画や写真の作品サイズだと展覧会のしがいがあると思った。
2018年12月1日(土)~2019年1月20日(日)午前9時半~午後5時。月曜休み(ただし12月24日、1月14日は開館し、12月25日と1月15日は休み)。12月29日~1月3日(木)も休館
道立文学館(札幌市中央区中島公園)
関連記事へのリンク
大本靖さん死去(札幌の版画家)
■大本靖展が始まる(2007)
■北海道版画協会作品展(2006)
・地下鉄南北線「中島公園駅」3番出口から約410メートル、徒歩6分
・地下鉄南北線「幌平橋駅」から約480メートル、徒歩7分
・市電「中島公園通」から約550メートル、徒歩7分
・中央バス、ジェイ・アール北海道バス「中島公園入口」から約200メートル、徒歩3分
思えば、札幌芸術の森美術館での大規模な個展から12年もたっているのだ。
よくある風景画とはひと味もふた味も違う、造形への厳しい意思のつたわる作品ぞろいで、見応えじゅうぶんだ。
しかも文学館の特別展としては珍しく、無料なので、おすすめです。
今回は、連作「蝦夷二十一景」(1972年)をはじめとする、道内各地を描いた版画に、それぞれの地に題材を得た文学作品(小説や随筆は抜粋)を添えるという、文学館としてはありがちな企画といえるが、これが案外おもしろいのだ。
写真や写実的な絵画だと、どうしても文学作品の鑑賞の方向性を狭めてしまいがちだが、適度に省略のきいた絵だと、見る側が想像力を働かせる余地が残るのである。
たとえば「夕日の釧路川」という版画には、原田康子『挽歌』の一節と、さらに石川啄木の
しらしらと氷かがやき千鳥なく釧路の海の冬の月かな
が添えられている。
大本靖本人のひとことが付してある作品も多い。
また、次の「冬の摩周」「コバルトの摩周湖」という版画には、八木義徳の小説「摩周湖」、更科源蔵の詩「摩周湖」、伊藤凍魚の俳句が添えられている。
こんな調子なので、じっくり読んでいくと30分はゆうにかかってしまう。
このほか、題材はペンケトー、野付半島、知床、オホーツク海の流氷、羊蹄山、大沼、昭和新山、支笏湖、函館、札幌など全道にまたがっているが、全体を通して作品数がいちばん多いのは、大雪山系を題材にした作。
毎年のようにスケッチのため登山に出かけていたらしい。
こうしてみると、山や湖は多いが、海は意外と少ない。
海を描いた作品もあるが、その多くは、海岸に咲くハマナスが主役になっている。
また「蝦夷二十一景」が制作された1972年当時は、小樽や富良野はまったく観光地として認知されていなかったことがよくわかる。今回は、富良野の北の美瑛町をとりあげた「BIEI」と題された作品はあるものの、小樽や富良野を題材にした版画は一枚もない。
小樽運河もラベンダー畑もまだ整備前だったのだ。
また、地名とは関係ない、「北の樹木」シリーズもあり「ダケカンバ」「春山の樹」など5点が並ぶ。
ほぼモノトーンで構築された画面は、緊張感をたたえる。
大本靖さんは1926年、小樽生まれ。
3歳から20歳まで主に札幌で過ごす。
44年に入隊。大学は明大に進む。
54年、札幌版画協会を旗揚げ。のちに北海道版画協会に発展する。
作品は、他に次の通り(とにかく、かなりの分量です)。
「暮日の湖面」「初秋の湖畔」(然別湖)
「新緑のペンケ沼」「ペンケ沼」(ペンケトー)
「NOKKE」「野付半島の枯れ木群」
「羅臼」「知床の滝」
「北のかたち<氷>」「Creak」「流氷の春」「流氷のオホーツク」「流氷の網走港」
「能取湖のサンゴ草」
「サロベツ原野と利尻富士」
「層雲峡」「黒岳と層雲峡」「雲の平」「トムラウシ」「大雪連山と花」「北ちんママ岳とコマクサ」「エゾコザクラ」「黒岳とエゾコザクラ」「三井ケ原」「北の山」(以上、大雪山系)
「マッカリの山」「浅緑」「南西のかぜ」「初夏の山」「エゾ富士」(以上羊蹄山)
「大沼の春」「大沼と駒ケ岳」
「函館のガンガン寺」
「暮日の積丹」
「昭和新山」「しん山」
「秋の中山峠」
「早春の日高海岸」
「青の支笏湖」
「緑のオコタンペ湖」
「ISHIKARI」「河口辺り」
「秋の北大農場」「白壁の建物」「秋の道庁 P」「秋の道庁 B」「赤レンガの道庁」
「北のかたち<海>」「でいたんのうた」
銀のシリーズ
「北の湿原」「北の桜」「寒塩引」など計5点
蔵書票57点(時計台、タンチョウ、フクロウなど)
小品10点以上
「北方文芸」創刊号目次などカット5点
道立文学館の特別展示室は、もともと直筆原稿や本などを並べるためのスペースなので油彩や現代アートの展示には狭いが、版画や写真の作品サイズだと展覧会のしがいがあると思った。
2018年12月1日(土)~2019年1月20日(日)午前9時半~午後5時。月曜休み(ただし12月24日、1月14日は開館し、12月25日と1月15日は休み)。12月29日~1月3日(木)も休館
道立文学館(札幌市中央区中島公園)
関連記事へのリンク
大本靖さん死去(札幌の版画家)
■大本靖展が始まる(2007)
■北海道版画協会作品展(2006)
・地下鉄南北線「中島公園駅」3番出口から約410メートル、徒歩6分
・地下鉄南北線「幌平橋駅」から約480メートル、徒歩7分
・市電「中島公園通」から約550メートル、徒歩7分
・中央バス、ジェイ・アール北海道バス「中島公園入口」から約200メートル、徒歩3分