札幌でおもにモビールなどを手がけるjobin.(じょびん)さんは、手がける作品が繊細で「俺が俺が」というところがまったくないし、実際に会っても物腰の低い誠実な方なので、ときどき忘れそうになるのだが、精力的な制作・発表ということに関していえば、いまの札幌でも指折りではないかと思うぐらいなのだ。
下のリンク先を見てもわかるし、昨年はこのほか12月にもト・オン・カフェで個展を開いていた。
だから正直に告白すると、この個展については、内心どこかで「まあ、無理して見に行かなくてもいいかな」という気持ちがあったのだが、実際に足を運んでみて、ほんとうに良かったと感じた。
事情さえ許せば、時間帯を変えてもう一度行きたいくらいだった。
古いガラス窓越しに入ってくる光の調子で、見えてくる作品の感じは相当変わってくるだろう。
jobin.さんの作品世界はすごく統一的なイメージがあるけれど、実はいろいろな手法やモティーフがあって、今回はよく登場する雲や舟が出てこない。
そのかわり、針金で成形された動物や、銅板の星が浮かんで、ギャラリーの壁に影をうつしたり、和紙を使ったあかりや、家の模型などが置かれて、あたたかみのある空間をつくっている。
冒頭画像は、これまで人間のかたちを避けてきたjobin. さんが手がけた人魚。
モビールなのでゆっくりと動く。方向によっては、針金の線でつくられたものはまるで人魚に見えないときもあるのだが、なぜか影はいつも、長い髪をなびかせて優雅に泳ぐ人魚に見えるのが不思議だ。
そのあいだに浮かんでいる薄青の樹脂板は、ある工房で機械を借りるチャンスがあって、その際に制作したもの。
一部が透明になっていて、草花などの文様が見える。
この青が壁にうつると、淡さがほんとうに美しい。
古い建物を改装したギャラリーの一部が海の底になっているかのようだ。
これまでじょびんさんは、針金にしても雲にしてもほぼすべて手作業で、今回のような器械を使ったことはないそう。自分のいろいろなこだわりを少し崩せたかな―という意味のことを話していた。
よく見ると、壁に「消えいりそうな姿をすくいとる」と、題とも短いテキストともいえそうな文字が書かれた紙片が貼り付けてある。
おなじような紙片は会場のあちこちにあって、注意していないと見落としそうだ。
2枚目は、針金によるオオカミ。
満月に向かってほえている。
オオカミの下部には黒い糸がつながって垂れ下がり、絵の筆遣いのようなものを感じさせる。
和紙でつくった百葉箱のような家が三つ。高い足を有している。
その近くには、ペガサスや一角獣のモビールが浮かんでいる。
足先にはビーズがついている。
ペガサスは、いったんできあがったものを、少し羽根のかたちを崩して作り直したとのこと。
針金でどこまでもリアルに成形していくことは可能なんだろうけど、そうすると、影が壁にうつったときの余韻のような情感は失われてしまう。
jobin.さんの世界の興味深いところだ。
壁際には小さな針金のイエティがいた。
「目の前にあらわれる直前ぐらいが楽しいのかもしれない」
ということばが記された紙片がひとつ。
なるほど。
そうするとこのあたりは、架空の生き物コーナーなのかな。
今回の個展のテーマ「架空」は二つの意味があって、もちろん一つは、この世にありえない、想像上の―という意味。
ネットに蔓延するフェイクニュースなども含め、昔にくらべると「架空」のもつ意味合いも変わってきていることも、見る側としては考えさせられる。
もうひとつの意味は、文字通り「空に架かっている」ということで、これまでjobin.さんのモビールにはぴったりの意味だ。
夕張から三笠に抜ける道路が、送電線の鉄塔と同じルートを走っていて、あちこちに
「架空線注意」
の看板が立っているのだが、これは文字通り、空に架かった電線に注意ということを言っているのだな。
ネットの架空はちょっとゲンナリだけど、こちらの架空は、なにかさわやかなものを感じさせる。
こちらはもうひとつの部屋。
写真の撮り方のせいで作品が密集しているように見えるが、実際にはそれほどでもない。
いちばん目立っているのは、ダイヤ形に成形した銅板の星々。
いつもなら裏側は緑青で処理するのだが、今回は窓越しに入ってくる太陽光線を意識してどちらも銅の色を生かすことにしたという。
かつて押し入れだったとおぼしき空間にはブランコが揺れていた(次の画像)。
jobin.さんは江別市大麻の団地で育った時期が長く、団地の公園に必ずあった遊具がブランコなのだという。
蛇足だが、jobin.さんの個展に行き、自分は心から良かったと思うのだが、しかし、客観的な美術作品・展覧会の評価というのは可能なのか? ということについて、あらためて考えてしまう。
もちろん、それぞれのテイストに対する好み、という面もあるのだが、たとえば今回の個展でいえば、古い家を改装した会場が彼の作品世界に合っているということは否定できないだろう。
たとえば、天井の高い大きなホワイトキューブ(美術館など)を会場としてあてがわれたら、jobin.さんは大幅な作戦変更を余儀なくされるに違いない。
大きなインスタレーションなら、この会場だと狭苦しくて不向きであろう。
かつては美術作品は会場を選ばないのがあるべき姿だったのだろうが、いまはむしろ会場が重要な要素になってきているような気がする。
2019年3月3日(日)~17日(日)正午~午後6時、水曜と14日休み
pecoranera gallery(札幌市中央区南6西23)
追記。4月17日(水)~21日(日)午前11時(初日午後2時半)~午後7時(最終日午後4時)、ギャラリーivory(札幌市中央区南2西2 NC HOKUSEN ブロックビル4階)で、近藤康平さんとjobin.さんの2人展「浮遊園地」が開かれます。昨年9月の予定が、胆振東部地震のため延期になったものです。会期中の20日午後1時(開場30分前)から、ライブドローイングも行います(3千円、予約2500円、音楽は成山剛さん)
□jobin.Lab http://jobin55.tumblr.com/
□ツイッター @jobin55
□Instagram jobin55
関連記事へのリンク
■わくわくアートスクール作品展 (2018)
■jobin. × studio claynote 二人展『涼しい夜遊び』 (2018年6月)
■ jobin.個展「しろよりしろ」(2018年4~5月)
■jobin.個展「露を結ぶ」 (2018)
■jobin. 個展「漂う明日」 (2017)
■2017年4月の個展 (画像なし)
■jobin.個展 [ あの夜の抜け殻 ] (2016)
■jobin. 個展 [そこで舞う] (2016年9月)
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■jobin. solo exhibition 私平線(2015年9月)
■jobin.個展[てですすむto宝水ワイナリー] (2014)
■jobin.個展「てをとめて」 (2013)
jobin.さんのあかりを、ライジングサン・ロックフェスティバルの会場で見た(2012)
【告知】札幌美術展 Living Art-日常- やさしさは いつも そばに。(2012)
◆Rising Sun Rock Festival 2011 in EZO
■Rising Sun Rock Festival 2010年
■nid-Espace et musique et un cafe・-(2010年4月)
※cafe の「e」は、アクサンテギュつき
■TOCCO 写真とモビールで綴る「旅」(2009年10月)
■Rising Sun Rock Festival 2009年
■ハルナデ展2009 jobin. と paterの二人展 (2009年3月)
■500m美術館(2008年11月)
■札幌スタイルのショーウインドーの展示(2008年)
■House展 華やかな作家たち(2007年)
地下鉄円山公園駅から pecoranera(ペコラネラ)への道順(アクセス)
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