主に鉄による力強い造形の彫刻やインスタレーションを手がけてきた石狩の川上りえさん。
今回の個展は、作家自身と、会場の札幌文化芸術交流センターSCARTSの両者が主催し、同センターの「オープニング公募企画事業」の一つとして開かれた。道銀文化財団の助成を受けるとともに、クラウドファンディングで必要経費を補った。
作者のステイトメントは次の通り。
私は時々、土と岩だけからなる広大な土地に一人佇む自分をイメージします。
そのたびに、自分が、果てしなく広がる世界を構成する一要素として
一瞬だけ存在しているのだという事実と対峙することになり、
不安と安心という矛盾を孕んだ不思議で魅力的な感覚に包まれます。
どうやらその感覚は、私の作品表現の核になっているようです。
私の、世界の本質に対する問いかけは、いつもそこから始まります。
今回の展覧会では、鉱物から生み出され、その表情を持つ金属(ステンレス・スティール)を使って、
SCARTS の広い空間の中に、大きな岩のような形状を設置します。
観るだけではなく、作品に触れて、空間の中を散策し、物質感が生み出す気配を感じ取ってください。
それぞれの鑑賞体験から、遠近感のある感覚や視点を発見してほしいと思います。
筆者は最終日にようやく足を運んだが、会場が人通りの多いところであることも手伝い、かなり多くの写真がツイッターにアップされているのを見てから、実物に触れることになった。
ツイッターに流れて来た写真はそれぞれ、かなり印象が異なる。
これは、たとえば平面作品では、まずありえないことだ。
どういうことなんだろうと思いながら会場に来て、その理由が分かった。
作品が大きくて、会場空間の大半を占めているので、全景をとらえることのできるポイントがないのだ。
したがって、各自が写真を撮る場所が違い、しかも一部分だけを切り取って写すことになるので、写真から受けるイメージがばらばらになってくる、というわけだ。
ばらばらといっても、各部分は魅力的な写真というか、いわば「インスタ映え」のする画像になりやすい。
多くの来場者を集めたことの背景でもあるのだろう。
ただ、実際に行ってみると、作者が
「作品の中を歩き回ってほしい」
と言っていたように、或る特定の地点から「見て、鑑賞する」というよりは、「歩いて、体験する」というスタイルの作品に近くなっていた。
次の画像で分かってくれるとありがたいのだが、天井からつり下げられた作品には、開口部のような入り口が2カ所ある。
真上から見たら「W」の形に近いか、あるいはじゃばら式のカーテンみたいなのではないかと思う。
向こう側は行き止まりで、通り抜けることはできないが、訪れた人は、金属のカーテンの間を行ったり来たりして、作品を楽しむのである。
片方の壁が全面ガラス張りになっていることや、作品そのものにおびただしい穴があいていることもあって、作品が空間を占拠していることの息苦しさや閉塞感のようなものはなく、むしろ開放的な印象を受ける。
これは個人差があるだろうが、自分がミクロの存在にまで縮まって、細胞壁に囲まれつつ、移動しているような感覚だった。
さらに、次の次の画像にあるが、どう見てもギャラリー用というよりは舞台などで使うような大きなスポットライトが光を発しており、壁面や床に作品の大きな影を投げかけていることも、作品の魅力を増している。
ただし、会場自体は、天井は高いものの、札幌市資料館ミニギャラリーの1室ぐらい。
事前に想像していたほどには巨大ではなかった。
とはいえ、十分に大きい。
それぞれの部材を薄くして、穴も開けて、軽量化を図らないと、運搬や設置もままならないだろう。
これまでの鉄にかわり、台所などでよく見るステンレスを採用したのは、そういう事情もあるだろう。川上さんは
「鉄は薄くするとさびやすくなってしまうので」
と話していた。
もう一つの部屋があいていたので、小品が展示してあった。
遠目にはふつうのハンドバッグに見えるものも、実は金属製である。
近寄ってみると、鉄が持つ多彩な色合いに驚かされる。
この作品の一部は、事前にJR札幌駅の「ART BOX」で展示されていた。
また、作者による作品解説や、ステンレスのかけらを一緒にたたく体験ができるプログラムも行われた。
川上りえさんは1961年、千葉県柏市生まれ。
東京藝大大学院修了。
下のリンク先にない個展として、16年にギャラリーレタラで「CAMPING NEAR THE WOOLEN MOUNTAIN」、韓国・大邱、17年にギャラリー門馬アネックスで「Landscape Will - On the Ground -」がある。
最後に蛇足を述べさせてもらうと、スケールメリットという観点からすると、今回の個展は彼女のキャリアの集大成だといって差しつかえない規模だろう。では、今後はどういう方向性になるのか。さらなる巨大さを目指すのか。あるいは、別のコンセプチュアルな視点を取り入れるのか。
「今後が注目される」というのは、文章の締めくくりとしてはあまり良くないのだが、今回はそのように書き終わるしかない。
2019年3月18日(月)~31日(日)午前11時~午後7時(最終日~6時)
SCARTSスタジオ(札幌市中央区北1西1 札幌市民交流プラザ2階)
□https://www.sapporo-community-plaza.jp/event.php?num=105
□http://riekawakami.net/
関連記事へのリンク
■JR Tower Art Planets Grand prix Exhibition 2018
■*folding cosmos 2013 「松浦武四郎をめぐる10人の作家達」
■川上りえ 札幌文化奨励賞受賞記念 Plus1 Group Exhibition (2013)
■川上りえ個展 UNLIMITED LIFE ZONE (2013年6月22日~7月7日)
■谷口明志・川上りえ Space Abstraction II (2012年)
【告知】まぼろしのいえ 川上りえ×冨田哲司
■谷口明志 × 川上りえ (2010年)
■PLUS ONE THIS PLACE(2010年9月)
■川上りえ個展 イロジカル・ムーブメント (2010年6月)
■SAG Introduction II (2009年10月)
■交差する視点とかたち vol.3 阿部典英 加藤委 川上りえ 下沢敏也(2009年7月)
川上りえ「ANCIENT SUN」(野外立体作品)
■SAG INTRODUCTION(2008年12月)
■On the wall/Off the wall 山本雄基、西田卓司、川上りえ(2008年9月)
■川上さんの米国滞在報告(08年6月)
■川上さん、米国でレジデンス中(08年4月)
■川上りえ展 Trace of Will(06年)
■米国での個展報告(04年)
■札幌の美術2003 ワークショップ
■札幌の美術2003
■北の彫刻展2002(画像なし)
■水脈の肖像(02年、画像なし)
■川上りえ個展-浸透痕(01年)
■北の創造者たち(2000-01年)
今回の個展は、作家自身と、会場の札幌文化芸術交流センターSCARTSの両者が主催し、同センターの「オープニング公募企画事業」の一つとして開かれた。道銀文化財団の助成を受けるとともに、クラウドファンディングで必要経費を補った。
作者のステイトメントは次の通り。
私は時々、土と岩だけからなる広大な土地に一人佇む自分をイメージします。
そのたびに、自分が、果てしなく広がる世界を構成する一要素として
一瞬だけ存在しているのだという事実と対峙することになり、
不安と安心という矛盾を孕んだ不思議で魅力的な感覚に包まれます。
どうやらその感覚は、私の作品表現の核になっているようです。
私の、世界の本質に対する問いかけは、いつもそこから始まります。
今回の展覧会では、鉱物から生み出され、その表情を持つ金属(ステンレス・スティール)を使って、
SCARTS の広い空間の中に、大きな岩のような形状を設置します。
観るだけではなく、作品に触れて、空間の中を散策し、物質感が生み出す気配を感じ取ってください。
それぞれの鑑賞体験から、遠近感のある感覚や視点を発見してほしいと思います。
筆者は最終日にようやく足を運んだが、会場が人通りの多いところであることも手伝い、かなり多くの写真がツイッターにアップされているのを見てから、実物に触れることになった。
ツイッターに流れて来た写真はそれぞれ、かなり印象が異なる。
これは、たとえば平面作品では、まずありえないことだ。
どういうことなんだろうと思いながら会場に来て、その理由が分かった。
作品が大きくて、会場空間の大半を占めているので、全景をとらえることのできるポイントがないのだ。
したがって、各自が写真を撮る場所が違い、しかも一部分だけを切り取って写すことになるので、写真から受けるイメージがばらばらになってくる、というわけだ。
ばらばらといっても、各部分は魅力的な写真というか、いわば「インスタ映え」のする画像になりやすい。
多くの来場者を集めたことの背景でもあるのだろう。
ただ、実際に行ってみると、作者が
「作品の中を歩き回ってほしい」
と言っていたように、或る特定の地点から「見て、鑑賞する」というよりは、「歩いて、体験する」というスタイルの作品に近くなっていた。
次の画像で分かってくれるとありがたいのだが、天井からつり下げられた作品には、開口部のような入り口が2カ所ある。
真上から見たら「W」の形に近いか、あるいはじゃばら式のカーテンみたいなのではないかと思う。
向こう側は行き止まりで、通り抜けることはできないが、訪れた人は、金属のカーテンの間を行ったり来たりして、作品を楽しむのである。
片方の壁が全面ガラス張りになっていることや、作品そのものにおびただしい穴があいていることもあって、作品が空間を占拠していることの息苦しさや閉塞感のようなものはなく、むしろ開放的な印象を受ける。
これは個人差があるだろうが、自分がミクロの存在にまで縮まって、細胞壁に囲まれつつ、移動しているような感覚だった。
さらに、次の次の画像にあるが、どう見てもギャラリー用というよりは舞台などで使うような大きなスポットライトが光を発しており、壁面や床に作品の大きな影を投げかけていることも、作品の魅力を増している。
ただし、会場自体は、天井は高いものの、札幌市資料館ミニギャラリーの1室ぐらい。
事前に想像していたほどには巨大ではなかった。
とはいえ、十分に大きい。
それぞれの部材を薄くして、穴も開けて、軽量化を図らないと、運搬や設置もままならないだろう。
これまでの鉄にかわり、台所などでよく見るステンレスを採用したのは、そういう事情もあるだろう。川上さんは
「鉄は薄くするとさびやすくなってしまうので」
と話していた。
もう一つの部屋があいていたので、小品が展示してあった。
遠目にはふつうのハンドバッグに見えるものも、実は金属製である。
近寄ってみると、鉄が持つ多彩な色合いに驚かされる。
この作品の一部は、事前にJR札幌駅の「ART BOX」で展示されていた。
また、作者による作品解説や、ステンレスのかけらを一緒にたたく体験ができるプログラムも行われた。
川上りえさんは1961年、千葉県柏市生まれ。
東京藝大大学院修了。
下のリンク先にない個展として、16年にギャラリーレタラで「CAMPING NEAR THE WOOLEN MOUNTAIN」、韓国・大邱、17年にギャラリー門馬アネックスで「Landscape Will - On the Ground -」がある。
最後に蛇足を述べさせてもらうと、スケールメリットという観点からすると、今回の個展は彼女のキャリアの集大成だといって差しつかえない規模だろう。では、今後はどういう方向性になるのか。さらなる巨大さを目指すのか。あるいは、別のコンセプチュアルな視点を取り入れるのか。
「今後が注目される」というのは、文章の締めくくりとしてはあまり良くないのだが、今回はそのように書き終わるしかない。
2019年3月18日(月)~31日(日)午前11時~午後7時(最終日~6時)
SCARTSスタジオ(札幌市中央区北1西1 札幌市民交流プラザ2階)
□https://www.sapporo-community-plaza.jp/event.php?num=105
□http://riekawakami.net/
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