全体的に露出がアンダーになっている写真が多いことを、まずおわびします。
「一水会」は、1936年(昭和11年)に有島生馬、石井柏亭、安井曾太郎ら8人が創立した、日展系の団体公募展。
創立の精神に
西洋絵画の伝統である写実の本道を守り、安易な会場芸術を非とし、技術を重んじ高雅なる芸術をめざす。
とうたっており、大半の団体公募展が年数の経過とともに当初の個性を薄れさせていく中で、一貫して具象絵画のみという明確な方針を掲げ続けています。
道支部展は、現在の体制になってから開催地を札幌とは限っていません。これは、すばらしいことだと思います。
また、この展覧会は19人が出品していますが、旧作も含めて3~5点並べている人が多く、ふだんメンバーの絵を目にする機会の少ない人にとっても、親切な構成といえるのではないでしょうか。
冒頭画像は、今年の開催地・千歳のとなり街である恵庭在住の中村哲泰さん「黄昏」(F100、右)と「軍艦島・いにしえ」(F130)。
「黄昏」が、筆者の好みです。
岩山の頂上が平らになっていて、「林」と呼ぶには小さすぎる針葉樹のかたまりがあります。実景なのか、空想の風景なのか、いずれにしても自然と向き合うことの厳しさを無言のうちに物語っているような作品です。
「軍艦島・いにしえ」は、縦の画面を上下に分かち、上にはかつて石炭の生産で栄えた島を、中村さんらしい青紫の空とともに描き、下半分には現在の人気の無い島を、オーカー系の色を主軸に描写しています。
中村さんはほかに
「ヒマラヤ・ひだ」
「とどまることのない生命」(同題2点)
の、いずれもF100の油彩を出品しています。
そのとなりは、安達久美子さんの「川床」(F100)と思われます。
青灰色を中心とした穏健な写実の風景画です。
安達さんはほかに
「定山渓初夏」(F50)
「忠別川の流れ」(F30)
を出しています。
旭川の佐藤道雄さんがF100を4点も並べています(ほかに、F40「冬枯れ」も出品)。
佐藤さんは、写実的に街の風景や室内を描いていますが、テレピンなどの油をほとんど混ぜずに絵の具をキャンバスに置いていくため、非常に特徴的なマチエール(画肌)を有しています。
うまくことばにするのがむずかしいですが「粘り気のある画面」ということができるかもしれません。
いちばん右側の「室内」を、近くから見てみましょう。
最初に述べたように、かなり暗めの画像になってしまい、申し訳ありません。
もともとそれほど明度の高い絵ではなく、曇り空や日陰の風景と同様に明暗の差のないのが持ち味とはいえ、ちょっと暗くなりすぎました。
それでも、室内の中央にオオウバユリのドライフラワーが存在感を発揮し、奥にはキャンバスが並んで立てかけられているのが見て取れると思います。
右側背後には、懐かしい「たくぎん」(北海道拓殖銀行)のカレンダーが貼ってあります。
これは1978年、一水会の大先輩である伊藤正さんが北大第二農場を描いた原画を載せたものだということでした。
佐藤さんは一水会の常任委員。
ほかに
「冬窓」
「構内風景」
「二月の画室」
も出品しています。
早川裕子さんの水彩画3点にも注目しました。初めて見る方です。
左から
「秋色の中のポンプ小屋」
「秋のせせらぎ」
「春風のうた」
で、いずれもF50です。
早川さんの絵は、ふつうの風景画ですが、ちょっと変わって見えます。
葉を一枚一枚描くのではなく、光と影の交錯による色班が全面にちりばめられているのですが、それぞれの色班に輪郭線が描かれているからです。
輪郭は、ありがちな黒ではなく、白い線で描かれていることもあります。
モティーフとは別個の線が画面全体を走り回っているのですから、色班描写の静的な趣と、輪郭の動的な感じがひとつの画面に同居して、不思議な効果をあげています。
女性の出品者は多いですが、おだやかな人物画を手がける人が目立ちました。
手前は山本孝子さんの油彩で、やわらかい光のなかの人物を描いています。
「室内」(F100)
「室内」(F50)
「風景」(F20)
奥は高間恭子さんの油彩。
こちらは生き生きとした若いお嬢さんがモティーフで、屋外の強い光が画面にさし込んでいます。
「予感」(F100)
「リラの花咲く頃」(F100)
「CUAE10DAYS」(F30)
水彩画では、地元・千歳の竹津昇さんの作品が目を引きます。
右は「海」(S50)。
中央は「シベリアに立つ」(P100)。
このほか「馬小屋の窓」(F80)もありました。
竹津さんは水彩連盟と道展の会員ですが、そちらに出しているような、段ボールを画面に貼った実験的な作品は、一水会には並べていません。
左は中野佳鶴子さん「神秘な青い池」(F100)。
中野さんはほかに「雪の散歩道(中島公園)」(F100)、「春の秋ケ瀬」(F50)も陳列しています。
「雪の散歩道」は、雪を枝に載せた木々がうっそうと茂っていて、札幌の都心部に近い公園という感じがあまりしないのがおもしろいです。
他の出品者は次の通りですが、オホーツク管内勢が例によって健闘していますので、別項で紹介します。
細貝信子
「厳冬」(P150)
「蝦夷石楠花の咲く頃」(F100)
「春の日差し」(F50)
管野裕子
「ここに思う」(F100)
「義父の肖像」(F20)
佐藤啓子
「読書する女性」(F50)
「思い」(F50)
「散策」(F50)=いずれも水彩
世良健司
「森の舞台」(F100)
「斜里の渓谷」(F100)
「静寂の赤」(F50)
船越とみ子
「古城(ドイツ)」(F100)
「レッスンの合間」(F100)
「バースの遠望(イギリス)」(F50)
村元道男
「秋景北浜橋」(F100)
「北運河」(F100)
「東雲出世坂風景」(F50)
2019年4月23日(火)~28日(日)午前10時~午後6時(最終日~午後3時)、金曜休み
千歳市民ギャラリー(千代田町5)
関連記事へのリンク
■一水会 北海道出品者展 (2015、画像なし)
■中村哲泰個展 (2018)
■第18回グループ環 展 (2017)
■第17回 グループ環展 (2016)
■中村哲泰・川西勝・松本道博 三人展(2016、まだアップしてません)
■第15回“グループ環”絵画展 (2014)
■中村哲泰おやこ展 (2009)
■第10回グループ環絵画展(小品展併催)=2009
■中村哲泰-高みを求めて (2008)
■第9回グループ環絵画展・小品展併催 (2008)
■第8回“グループ環”絵画展 (2007)
■中村哲泰個展 (2006)
■第4回“グループ環”油彩展 (2003)
■ヒマラヤを描く 中村哲泰個展 (2003)
■第3回“グループ環”油彩展 (2002、画像なし)
■第2回 グループ環 油彩展 (2001、画像なし)
□竹津さんのブログ(toledoのブログ) https://ameblo.jp/toledo817
■第5回グループ象展(2018)
■第6回グループ水煌(すいこう)展 (2018、画像なし)
■第9回 水彩連盟 北海道札幌支部展 (2014)
■第3回グループ象(しょう)展 (2014)
■水彩連盟北海道札幌支部展 (2013)
【告知】第2回一線北海道五人展(2012) ■一線北海道3人展(2010)=竹津さん出品
■第28回 一線美術会北海道支部展 (2010年5月、画像なし)
■第40回記念北海道教職員美術展(2010年1月)
■竹津昇水彩画展-原風景を求めて (2009年11月)
■第2回グループ水煌 (2009年9月、画像なし)
■竹津昇水彩画展 (2009年6月)
■第27回一線美術会北海道支部展(2009年)
■第3回水彩連盟北海道札幌支部展(2008年11月、画像なし)
■第26回一線美術会北海道支部展
■第1回グループ水煌(すいこう、2007年 画像なし)
■竹津昇・石垣渉2人展(2007年)
■竹津昇・Arcosスケッチ展(2007年)
■第25回一線美術会北海道支部展 (2007、画像なし)
■第1回水彩連盟北海道札幌支部展(2006年)
■竹津昇『スペイン・スケッチ展』(2006年)
■竹津昇スペインスケッチ展(2006年)
■竹津昇エストラマドゥーラ・スケッチ展(2006年、画像なし)
■第36回北海道教職員美術展(2006年、画像なし)
■竹津昇・アンダルシア・スケッチ展(2005年)
■竹津昇スケッチ展(2004年、画像なし)
■第22回一線美術会北海道支部展(2004、画像なし)
■竹津昇水彩展 MADRID FREE TIME(水彩の旅)=2003年、画像なし
■竹津昇水彩スケッチ展(2002年、画像なし)
(この項続く)
「一水会」は、1936年(昭和11年)に有島生馬、石井柏亭、安井曾太郎ら8人が創立した、日展系の団体公募展。
創立の精神に
西洋絵画の伝統である写実の本道を守り、安易な会場芸術を非とし、技術を重んじ高雅なる芸術をめざす。
とうたっており、大半の団体公募展が年数の経過とともに当初の個性を薄れさせていく中で、一貫して具象絵画のみという明確な方針を掲げ続けています。
道支部展は、現在の体制になってから開催地を札幌とは限っていません。これは、すばらしいことだと思います。
また、この展覧会は19人が出品していますが、旧作も含めて3~5点並べている人が多く、ふだんメンバーの絵を目にする機会の少ない人にとっても、親切な構成といえるのではないでしょうか。
冒頭画像は、今年の開催地・千歳のとなり街である恵庭在住の中村哲泰さん「黄昏」(F100、右)と「軍艦島・いにしえ」(F130)。
「黄昏」が、筆者の好みです。
岩山の頂上が平らになっていて、「林」と呼ぶには小さすぎる針葉樹のかたまりがあります。実景なのか、空想の風景なのか、いずれにしても自然と向き合うことの厳しさを無言のうちに物語っているような作品です。
「軍艦島・いにしえ」は、縦の画面を上下に分かち、上にはかつて石炭の生産で栄えた島を、中村さんらしい青紫の空とともに描き、下半分には現在の人気の無い島を、オーカー系の色を主軸に描写しています。
中村さんはほかに
「ヒマラヤ・ひだ」
「とどまることのない生命」(同題2点)
の、いずれもF100の油彩を出品しています。
そのとなりは、安達久美子さんの「川床」(F100)と思われます。
青灰色を中心とした穏健な写実の風景画です。
安達さんはほかに
「定山渓初夏」(F50)
「忠別川の流れ」(F30)
を出しています。
旭川の佐藤道雄さんがF100を4点も並べています(ほかに、F40「冬枯れ」も出品)。
佐藤さんは、写実的に街の風景や室内を描いていますが、テレピンなどの油をほとんど混ぜずに絵の具をキャンバスに置いていくため、非常に特徴的なマチエール(画肌)を有しています。
うまくことばにするのがむずかしいですが「粘り気のある画面」ということができるかもしれません。
いちばん右側の「室内」を、近くから見てみましょう。
最初に述べたように、かなり暗めの画像になってしまい、申し訳ありません。
もともとそれほど明度の高い絵ではなく、曇り空や日陰の風景と同様に明暗の差のないのが持ち味とはいえ、ちょっと暗くなりすぎました。
それでも、室内の中央にオオウバユリのドライフラワーが存在感を発揮し、奥にはキャンバスが並んで立てかけられているのが見て取れると思います。
右側背後には、懐かしい「たくぎん」(北海道拓殖銀行)のカレンダーが貼ってあります。
これは1978年、一水会の大先輩である伊藤正さんが北大第二農場を描いた原画を載せたものだということでした。
佐藤さんは一水会の常任委員。
ほかに
「冬窓」
「構内風景」
「二月の画室」
も出品しています。
早川裕子さんの水彩画3点にも注目しました。初めて見る方です。
左から
「秋色の中のポンプ小屋」
「秋のせせらぎ」
「春風のうた」
で、いずれもF50です。
早川さんの絵は、ふつうの風景画ですが、ちょっと変わって見えます。
葉を一枚一枚描くのではなく、光と影の交錯による色班が全面にちりばめられているのですが、それぞれの色班に輪郭線が描かれているからです。
輪郭は、ありがちな黒ではなく、白い線で描かれていることもあります。
モティーフとは別個の線が画面全体を走り回っているのですから、色班描写の静的な趣と、輪郭の動的な感じがひとつの画面に同居して、不思議な効果をあげています。
女性の出品者は多いですが、おだやかな人物画を手がける人が目立ちました。
手前は山本孝子さんの油彩で、やわらかい光のなかの人物を描いています。
「室内」(F100)
「室内」(F50)
「風景」(F20)
奥は高間恭子さんの油彩。
こちらは生き生きとした若いお嬢さんがモティーフで、屋外の強い光が画面にさし込んでいます。
「予感」(F100)
「リラの花咲く頃」(F100)
「CUAE10DAYS」(F30)
水彩画では、地元・千歳の竹津昇さんの作品が目を引きます。
右は「海」(S50)。
中央は「シベリアに立つ」(P100)。
このほか「馬小屋の窓」(F80)もありました。
竹津さんは水彩連盟と道展の会員ですが、そちらに出しているような、段ボールを画面に貼った実験的な作品は、一水会には並べていません。
左は中野佳鶴子さん「神秘な青い池」(F100)。
中野さんはほかに「雪の散歩道(中島公園)」(F100)、「春の秋ケ瀬」(F50)も陳列しています。
「雪の散歩道」は、雪を枝に載せた木々がうっそうと茂っていて、札幌の都心部に近い公園という感じがあまりしないのがおもしろいです。
他の出品者は次の通りですが、オホーツク管内勢が例によって健闘していますので、別項で紹介します。
細貝信子
「厳冬」(P150)
「蝦夷石楠花の咲く頃」(F100)
「春の日差し」(F50)
管野裕子
「ここに思う」(F100)
「義父の肖像」(F20)
佐藤啓子
「読書する女性」(F50)
「思い」(F50)
「散策」(F50)=いずれも水彩
世良健司
「森の舞台」(F100)
「斜里の渓谷」(F100)
「静寂の赤」(F50)
船越とみ子
「古城(ドイツ)」(F100)
「レッスンの合間」(F100)
「バースの遠望(イギリス)」(F50)
村元道男
「秋景北浜橋」(F100)
「北運河」(F100)
「東雲出世坂風景」(F50)
2019年4月23日(火)~28日(日)午前10時~午後6時(最終日~午後3時)、金曜休み
千歳市民ギャラリー(千代田町5)
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■一水会 北海道出品者展 (2015、画像なし)
■中村哲泰個展 (2018)
■第18回グループ環 展 (2017)
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■中村哲泰・川西勝・松本道博 三人展(2016、まだアップしてません)
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■竹津昇水彩画展 (2009年6月)
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■竹津昇スペインスケッチ展(2006年)
■竹津昇エストラマドゥーラ・スケッチ展(2006年、画像なし)
■第36回北海道教職員美術展(2006年、画像なし)
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■竹津昇水彩スケッチ展(2002年、画像なし)
(この項続く)